「あーっ、ほら、またぼーっとしてる!」
マリンの大きな瞳。不思議そうな表情。
「朝からずっと、そう。お仕事大丈夫だった?」
「え……ああ」
夕食を終えて、リビングで雑誌を読んでいた。マリンにそう言われて、
雑誌の内容がほとんど頭の中に入ってないことに気付いた。気まずそうに苦笑する。
「こらこら、クラウドはお仕事で疲れてるんだから」
夕食の片づけを終えてティファがリビングに入ってきた。
「それにクラウドがぼーっとしてるのはいつものことでしょ」と笑う。
マリンはまだ少し納得がいかないようで、軽く頬をふくらませている。
その表情が妙に可愛らしくてクラウドとティファはくつくつと笑った。
「……頭冷やしてくる」
外に出ようとすると、ティファが慌ててジャケットを持ってきた。
「風邪ひかないようにね」
「……悪い」
余計な詮索をしないティファがありがたかった。……心配しているだろうに。
家の外に出るとがくんと空気が冷たくなるのがわかった。吐息が白い。
空はもう藍色に染まっていたが、星は見えない。これは都市の宿命かもしれない。
(………セフィロス)
気付けば彼のことばかり考えている。今朝のことを。セフィロスが、
7年前のままの穏やかな表情で、自分を抱きしめてくれた。いまだに信じられない。
夢だったのではないかと。でも夢だと思って否定すればするほど、
抱きしめられたときのぬくもりと、力強い腕の感触が思い出されて、ツキンと胸が締め付けられる。
自分の帰るべき場所はここだったんだって。ずっとあの腕の中にいたくなるような……
これは、彼を昔のまま愛している所為だろうか?ティファよりも?
その答えは、クラウドには出せなかった。ただ今は、セフィロスが生きていたこと、
それだけがクラウドの内を満たしていた。
(明日の朝……教会に行こう)
(会えなかったら、たぶんこれは夢だから……)
見上げた空に、ぼんやりと光る月を見つけた。冷たいのか温かいのかよくわからない、
冴えた光だ。それは、あのひとの眼差しとどこか似ていた。
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