痙攣しながらふたり同時に絶頂を迎えた。よほどの快感だったのか、
抜かれてもまだクラウドはぼぅっと余韻に震えている。
堪らない感覚、幸福感と満足感が足し合わされた感覚、もうずっと忘れていた……
「セックスって、こんなに気持ちよかったんだね……」
潤んだ瞳で微笑むと、セフィロスがゆっくりとキスを求めてきて、夢中になって答えた。
何度も何度も、唇を重ねるたび、思いが伝わりあって、増幅して、もっと欲しくて。
うっすらと汗ばんだ身体をぴったり重ね合わせて、
ふわふわとした浮遊感に包まれながらキスを繰り返す。
しかしその穏やかな空気を遮ったのは、急に鳴り出した不釣合いに軽快な音楽だった。
「あ……ごめん、目覚まし、だ……」
キスの余韻に惚けつつ、億劫気にセフィロスの腕の中から抜け出すと、
傍らに脱ぎ捨ててあったボトムのポケットから携帯を取り出して、目覚ましを止めた。
「もうこんな時間……」
ティファが起きてしまう。きっと心配するだろう。……帰らないといけない……
「帰るのか?」
背後からセフィロスが話しかけてきた。驚くほど優しい声で。
「………………」
「帰るところがあるんだろう?」
「………うん…」
セフィロスの、顔が、見れない。うつむいて、クラウドはぽつりとつぶやいた。
「…………ケッコン、するんだ」
セフィロスの顔が、怖くて見れない。振り返れないまま、
クラウドはじっと手の中の携帯を見つめている。
「そう、か」
セフィロスは、その一言だけつぶやくと、もう何も、言わなかった。
やがて後ろからそっと抱きしめられて、クラウドは気付いた。
いつのまにか身体が震えていたこと。セフィロスの体温のあたたかさに溶かされて、
ただゆっくりと震えがひいていくのを感じていた。
(セフィ…セフィロス……どうしてそんなにやさしいの……?)
ずきん……と、不思議な感覚がした。胸の上のほうと、
喉元がぎゅうっと締め付けられるような。少し……苦しい。どうしたら治るんだろう……。
「セフィ……お願い、もっと、抱いて…抱きしめて……」
少しだけ身をよじって、気付いたセフィロスが腕を解くと、
振り向いたクラウドの表情はあまりにも切なくて、されるがままに押し倒され、
クラウドがその胸を思うさま抱きしめようとした、そのときだった。
携帯から、先ほどとは違う曲が流れ、クラウドが、どきりと揺れた。
「電話……ティファ、だ……」
困惑した表情でクラウドはセフィロスを見た。セフィロスは、無言でクラウドを諭した。
出てやるんだ、と。わずかに躊躇した後、おそるおそる通話ボタンを押して耳をあてると、
心配げな彼女の声が聞こえた。
「ティファ…………うん、ごめん……勝手に抜け出して……」
受け答えしながら、ごめん、と何度も謝った。それは、何も告げずに家を出てきたこと、
なのだろうが、あるいはセフィロスと逢ってしまったこと、か。
「今……このあたり、適当に、歩いてる。うん…散歩……日課にしようと思って
…………ううん、まだ……マリン起きてる?……うん、起きたら、先に食べてて。
もう少し、かかるから……」
始めこそぎこちなかったが、話しているうちに、少しずつクラウドの表情に、
今まで無かったやわらかな穏やかさが生まれるのをセフィロスは、見た。
「うん……大丈夫、もう、帰るから……うん、それじゃ……」
電話を切ると、クラウドは少しだけこわばった表情で、服を着始めた。
セフィロスも辺りに散らばった服を手繰り寄せていく。
「……おまえ、こんな薄着で来たのか」
「え……?」
ノースリーブのカットソーから頭を出したクラウドが首を傾げる。
「ジャケットちゃんと着てきたよ」
「その下が薄すぎるんだ。……寒かっただろう」
「寒くなんて……」
言いかけて、気付いた。ここに来るまでは、寒くてたまらなかったことを。
同時に理解した。どうして今寒くないのかも。……心が溶けた気がした。
「大丈夫……セフィロスがあたためてくれたから、もう寒くないよ」
ふんわりと微笑んでみせると、セフィロスは少し困ったように苦笑した。
「そんなこと、言われたら……」
「ね、ふたつだけお願い」
ジャケットを羽織ったクラウドが立ち上がって、引き上げられる形でセフィロスも腰を上げた。
「……また、来てもいい?」
「…………いいのか?」
言葉を詰まらせて、控えめに、クラウドは頷いた。
それから、と少しためらいがちにセフィロスを見上げた。
「もう一回だけ……ぎゅーって、して。次に会うときまでに、
俺が凍えてしまわないように……」
言葉が終わらないうちに身体が重なりあった。
どちらから先に抱きついたのかよくわからない。
さきほどまでの優しいものとはまた少し違う、激しい抱擁だった。
服越しでもわかる、互いの体温に感極まって熱い吐息を吐き出した。
「あたたかい……すごい、あたたかいよ、セフィ……」
「……おまえは寒がりだから、な……」
いつもそばにいたい―――強い強い、衝動。ほんの少しでも離れていたくない。
いつも寄り添っていられれば、きっと寒くなんてないのに……
けれど、叶わないのがわかるから、このひとときのあたたかさがたまらなくいとおしく感じられる。
もっと欲しい、もっと……その思いを必死に、必死に抑えつけて、
ゆっくりと身体を離すと、クラウドがセフィロスの頭を引き寄せて突然キスを落とした。
少し驚いた風のセフィロスにふわりと微笑みかけて、くるり後ろを向いて駆け出した。
振り返らなかった。振り向いたら、あの胸に戻りたい、って、
抑制が効かなくなってしまいそうだったから。外に出ると、
先ほどより幾分高くなった日差しが目にしみた。一日の始まりの空気、
それはひんやりと肌に落ちた。服を着たほうが、やはり少し、寒かった。
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