黒い水


真っ暗だ。ぴちょん……ぴちょん……どこかで水の落ちる音がする。 見える限り、一面の黒い水面。とてもひんやりとした…… 歩こうとしたら、ざぶ、と腰から下に水の抵抗を感じた。かまわず歩いた。 その先に、セフィロスは横たわっていた。白く白く、浮かび上がって。 裸の上半身が、黒い水面に浮かんで。水面に広がった髪が、ゆらゆらと揺れて。 セフィ、そこにいたの?ずっとそこにいたの?こんな寒いところに、ひとりで? ……頬に、触れた。 ぎょっとするほど冷たかった。抱き上げた。水の浮力で、それはたやすかった。 生白い肌。セフィロスの身体は、やはりひどく冷たかった。 おそるおそる、胸に耳をあてた。とくん、とくん、心臓は弱弱しく鼓動をしていた。 その音を聴いて心から安堵した。よかった………よかったぁ……生きてて、よかったあ……。 こんなところにずっといたから、こんなに身体が冷たいんだね……大丈夫、 俺が、あたためてあげるから……
「……だ、…れ……?」
セフィロスの硬質的な顔が、ふっと和らいだ。
「…あたたかい……」
セフィロスの表情は、まるで母親に甘える子供のようで、きっと、 このひとは一度もこんな表情したことなかったのだろうけれど。 セフィロスは優しい夢の中にあるように吐息ついて、夢うつつのまま、つぶやいた。
「オレを愛して……」
瞳を閉じたまま、か細い声だった。
「もう、ひとりは嫌だ……」  
そっと頬にキスをして、優しく抱きしめた。もう、 こんなところにひとりぼっちでいなくていいんだよ。 …俺が、ずーっと一緒にいてあげるね……


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