「もう……祈らないのね」
ミッドガルの墓地。建てられたばかりのクラウドの墓の前にセフィロスはいた。
喪服を着たティファがパティを連れて、彼に歩み寄った。
「葬式に出ても、よかったのよ」
「……おまえの仲間たちが承知しないだろう」
墓を見つめたまま低く答えた彼に、それもそうね、とティファは苦笑した。
「クラウドはよく遠くを見ていたの。囚人みたいに」
そしてクラウドの視線の先にはいつも、彼がいた。
「私が気づいてないとでも思っていたのかしら」
「……クラウドの気持ちは、わかっていた」
セフィロスの言葉に、ティファが意外そうな表情をした。
「ジェノバの所為か。いつしかクラウドの声が、聞こえるようになった。
傍に来るほど、はっきりと」
「どうして……」
みるみるティファの顔が歪んだ。もう枯れたと思ったのに、また涙がこぼれた。
「どうして私を責めないの!?」
「……クラウドがおまえを選んだからだ」
「クラウドは馬鹿よ。さっさと私なんて捨てればよかったのに」
こらえきれずに、ティファは泣き崩れた。真夏の空を映したような瞳をぱちくりさせて、
パティが不思議そうに崩れ落ちる母親を見つめている。
「私じゃあの人に、最期にあんな表情をさせてあげられなかった」
あの人のあんな幸福な顔、見たことがなかった。自らの非力さを痛感したのだ。
「…あの人、最後まで私を本当に愛してくれなかったわ」
とうとう、言ってしまった。抑えていたものが溢れて、涙が溢れて、
苦しげにティファは震える手で瞼を押さえた。
「だって、私に向かって一度も『愛してる』って言ってくれなかったもの……」
「……それは…違う」
セフィロスは、静かに否定した。
「クラウドの愛は……確かにおまえにも注がれていた……」
「……そんな……」
「おまえが気づかなかっただけだ……」
それだけ言うとセフィロスは、ゆっくりと歩き始めた。
……彼はどこへ行くのだろう。それは誰にも分からなかった。きっと、本人ですら。
やがてセフィロスの姿がすっかり見えなくなった頃だろうか、
泣き崩れたままのティファは、すぐ傍で、思いがけない声を聞いた。
「……まーまー」
「え……?」
ティファが呆然としていると、パティはあどけない笑顔でティファの服を引っ張り、
もう一度呼びかけた。
「まーま……」
「…しゃべった……パティがしゃべった」
この喜びは亡き夫からの贈り物なのだと、ティファはそう感じた。彼女は無意識に、笑顔に近い表情を作っていた。
ティファは悲哀とはまた別の意味の涙を浮べて、
万感の思いを込め、幼い娘をしっかりと抱きしめた。
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