寂静の教会


あわただしい雑踏。灰色の空。灰色の街。灰色の道。夕日は厚い雲に隠されて見えない。 街全体が無彩色だとクラウドは感じた。それはこの街特有のもので、 今日に始まったことではないのだけれど。
仕事を片付けるのが遅れた所為で少し約束の時間に遅れそうだ。 パーティー会場のセブンスヘブンに向かうため早歩きで先を急ぐ。 気づくと、いつのまにか景色にまぎれて白いものが舞っていた。
(初雪か……まだ12月なのに)
冷えてきた。早く帰って、パーティーでアルコールを入れようと思った。 ティファが作ってくれる、すこしキツめのカクテルを。 そして今日の仕事を少し冗談交じりに話せば、きっとあたたまるだろう。 ふと、あの頃はアルコールなんかなくてもあたたかかった、と、本当にふと、思い出した。 そういえばあの頃は、隣にあのひとがいるだけで、すべてが満たされていた、と。
(寒い、ね……)
あの頃は、手を繋ぐと、あのひとのほうが体温は低かったのに、 なぜかとてもあたたかくなれた。群衆のなか離れないように、 コートのポケットの中つないだ手をしっかり握り締めて。 そう、あの頃は……いや、過ぎたことだ、もう考えるまい。 そう思って首を横に振った。そのときだった。
「ひいちゃん、行こうよ」
「またあの銀髪のお兄ちゃん、いるのかな?」
通り過ぎてく子供。
「…え………」
今、なんて言った?銀髪の男なんて、何人もいない。クラウドは咄嗟に振り返った。 反射的に追いすがっていた。
「ちょっと……待ってくれ!」
走り去るふたりの子供を無我夢中で追いかけた。見失わないように必死で。 肩に手をかけて強引に引き止めた。
「い、痛い」
「ひいちゃん?」
ふたりが振り向いた。幻聴だと思った。情けないほど自分の声が震えるのを感じながら、 けれど訊かずにはいられなかった。幻聴だと言って欲しかった。
「待ってくれ……今、……銀髪のお兄ちゃんって」
ふたりの子供は不思議そうに顔を見合わせた。
「銀色のかみ」
「すごく長いの」
「お花の教会にね」
「よくいるよね」
「最近いるよね」
「ねー」
ふたりは、5番街スラムの教会の花の世話をしている子供だ。 それに気付くが早いかクラウドは駆け出していた。
「変なお兄ちゃんー」
「ねー」
ふたりはクラウドを見送って、また顔を見合わせた。
このときクラウドは、ティファのこと、仲間のこと、パーティーのこと、 すべて忘れてしまっていた。クラウドは混乱していたのかもしれない。 いや、思考が乱れたわけではない。このときのクラウドの心は、 ただひとつの願いで満たされていた。ただあのひと会いたさに。 会ってどうしようとか、他のことなど一切考えずに、ただ一目会いたさに、 全力で駆けた。息が切れても、苦しくなんてなかった。まるで何かにとりつかれたかのように。
(セフィ…ロス……)
白い息を吐きながら、教会の扉を開け放った。けれど、しんとした教会内には、 誰もいなかった。ただ、白や黄色の花がつつましく咲いている。 初冬だというのに、ひどく美しい。
クラウドは、ゆっくりと足をひきずった。ゴッ、ゴッ、と靴音が反響する。 人気のない教会にその音は妙に重く響いた。
奥まで歩いて、足元の花を見下ろすと、きれいに手入れされているのが見える。 へたりと座り込んで、可憐に咲くその花をそっと撫ぜた。
「セフィロス……いたの……?」
瞳を揺らして花を見つめる。思わず、身体を抱いた。
「どうして……?」
自らの身体を抱きしめたまま、動けなかった。震えていた。……いつまでも、固まったままで。


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