それからのクラウドは、にわかに体調を崩すようになった。
高熱を発し、ひどいときは体温が40度を超え、譫妄の症状すら現れる。しかし3、4日もすると、ぱたりと熱は引く。
しばらく何の問題も無い時期が過ぎた後、また突然発症する。その繰り返し。
突発的な高熱を除けばクラウドは一見健常に見えるが、
時とともに徐々に発症から発症までの期間は狭まってきていた。
そしてクラウドの体力は、着実に削り取られていた。
必ずしも死に至る病ではないと、医者は言う。けれど、
ミッドガルの医者には、いや、たとえ医学の発達したミディールに行こうとも、
クラウドの病気に手を施すことはできなかった。結局、
クラウド自身の希望で自宅療養をすることとなった。そしていつしか、
ティファの打つ点滴にも慣れた。
ティファは半ば強引にクラウドに仕事をやめさせた。
貯金は十分にあるし、セブンスヘブンの収入もあるから生活には困らない。
熱が出ていないとき以外は健康なのだから別にやめなくてもいいとクラウドは思っていたが、
また仕事先で倒れられたらたまらないと、
ティファのその一言でクラウドはすべての仕事を打ち切った。
仕事をしなくなったことで余った時間のほとんどを、クラウドは家族のために費やした。
家事を手伝ったり、パティやマリンと遊んだ。今まで仕事であまり構ってやれなかった家族と、
できるだけ一緒にいるようにした。まるで埋め合わせをするかのように。
クラウドの表情は、いつも穏やかだった。いつ高熱を発するかわからない、
治るのかわからない、それなのに、クラウドは泣き言すら言わない。
それがティファにはひどく不思議に思えた。どうしてそんなに強く在れるのだろう。
気になった、けれど、怖くて聞く事ができなかった。
「クラウド……」
発症からふた月ほど経ったある夜ふけ、マリンがクラウドたちの寝室に来た。
「なんだマリン、また眠れないのか?」
「…だって……」
マリンの目じりに、また涙が浮かんだ。初めてクラウドの病気を知ったときは、
それこそ三日三晩泣きとおしたのだ。
「マリン、……あのとき俺は言っただろう?俺は死ぬわけじゃないって」
クラウドはマリンに優しく言い聞かせる。同時に、自らにも。
「…うん、たとえ医者の言う『最悪の場合』が起きたとして、でも……
だから…だからこそ、精一杯生きたいんだ。だからマリンには、ずっと笑っていて欲しい」
ティファが、マリンの髪を優しく撫でた。「泣くと可愛い顔が台無しよ」と笑って。
「……でも、泣きたいときは思いっきり泣くといいわ。
そして朝が来たら、思いっきり笑ってやるのよ」
「……うん」
マリンの顔にわずかな笑みがこぼれ、目じりからしずくがこぼれた。
ティファが指先でそのしずくをそっと拭う。
「マリンが泣くことで、救われる心もあるのよ……」
その言葉に、マリンは不思議そうな顔をした。ティファは、ふわりと笑んだ。
(マリンが泣いてくれなかったら、きっと私が泣いてたから……)
もしかしたらこの所為で、クラウドは泣けないのだろうかと、ティファはふと思った。
周りの悲哀に押しつけられて、クラウドは泣けないのだろうかと。あまり考えたくなかった。
でもティファは、自分は、ほんとうはクラウドに泣いて欲しいのだと、そう思っていることに
ようやく気づいたのだ。
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