「シュヴェルネル・アルマンヒェ……?」
耳慣れない不気味な言葉に、ティファは不安げに瞳を揺らした。
ミディールのとある病院。仕事先でクラウドが倒れたという連絡を受けて、
パティの世話をマリンに任せ、ティファは単身クラウドが運び込まれた病院までやってきたのだ。
そこで待っていたのは、「どうか、落ち着いて聞いて下さい」という言葉から始まる、
唐突な、あまりにも唐突な宣告だった。
「その病名は、ミディールでの仮称です。ミッドガルの方では、病名すら定まっておりません。
数万人にひとりが発症する奇病で、体の中の抗体が何らかの理由で健常な細胞を攻撃、
死滅させるという病気の一種なのですが…」
禿頭の医者は、横に寝かされたクラウドと傍らのティファに、説明した。
「高熱を発し、徐々に衰弱し、やがて……そのような、症例のあるものですが、
……なにぶんこの病気に関しては……情報が不足しておりまして」
ティファが息を呑んだ。クラウドは、眉根ひとつ動かさず、静かに聞いている。
「……とにかくこちらとしましては、ここに入院することをおすすめします。
ミッドガルのようなところでは、ろくな治療ができないでしょうから」
後半の言い回しには、どこか含むところがあった。気になったが、
そのことには、ティファは知らない振りをすることにした。
「……余命は?」
突然、クラウドが口を開いた。ティファは目を見開いてクラウドを見た。
クラウドの表情は静かなままだ。静かなだけに、感情は、痛いほど。
医者の顔はみるみるうちにこわばった。
「とにかく今は入院して体調をととのえることを……」
「…俺はあとどれだけ生きられるんだ?」
「……それとしましては当方の意見ですが、
これからの研究次第で追々わかってくるものと思われまして……」
医者のか細い答弁が、遠くで聞こえる気がした。
(それすらも、わからない、か……)
クラウドは瞑目した。もう、迷いはなかった。
「ミッドガルに帰るぞ、ティファ」
「クラウド……」
禿頭の医者は耳を疑った。思わず声を荒げていた。
「そんな……みすみす命を捨てるおつもりですか」
「俺は死ぬつもりは無い。だが、こんなところに入院する気も無い」
「これは個人の嗜好の問題では……」
「だが、何もできないんだろう?」
クラウドの意志は強かった。言い切ったクラウドに対し、医者は敗北を認め、静かにうなだれた。
「わかり…ました。解熱剤だけは、こちらでお出しします」
結局、クラウドはティファとともに帰途についた。その間のクラウドは静かで、
でも足取りはしっかりしていて、とても不治の病とは、しかも、
つい先ほど宣告されたばかりとは、思えない。だからこそティファは心配だった。
そんなティファを、クラウドの斜め後ろからじっと表情を伺うティファを
知ってか知らずか、クラウドはミッドガルに着く頃、
緋色の夕日を眺めてぽつりと一言だけ呟いた。
「マリンが……」
そのときのクラウドの後姿は、ティファにはひどく小さく見えた。
「マリンが……また泣いてしまうかもしれないな……」
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