終曲の始まり


使用される頻度と用途はどうあれ、教会堂というものは大抵の町にはあるものだ。 うらぶれた町の北のはずれ、それはひどく寂れた教会だった。中に入ると、 いかにここが長く使用されていないかよくわかる。埃をかぶった十字架と、 割れたステンドグラス。けれど、色のくすんだ空間であっても、彼の銀髪は変わらず美しかった。
来訪者は、彼の祈りを妨げぬよう静かに、ゆっくりと近づいた。 古びた床はぎしぎしと嫌な音を立てた。 それであっても祈り続ける彼の空間は一種の絵画のように固定されて崩れることはない。 来訪者ヴィンセント・ヴァレンタインはある程度まで彼に近づくと、足を止めた。
「私が来た事を、意外に思わないことだ。 『教会にいる銀髪の男』を捜すのは、さほど難しいことではない」
ヴィンセントの言葉に、返答は無かった。かまわずヴィンセントは続けた。
「うわさどおりの熱心さだな。何をそんなに祈っている?」
返答は、やはり無かった。静かな後姿を、ヴィンセントは目を細めて見つめる。 カマをかけはしたものの、予想はついていた。
「……『彼が幸せなら、かまわない』……か?」
その問いに答えは返ってこなかったが、「図星か」とヴィンセントはごく軽いため息をついた。
「この間、私の仲間が会いに来てな。 シドという男だが、最近のクラウドの様子を
こう話していた」
瞑目を続ける彼は姿勢ひとつ変えることなく、表情にも一切の乱れは無い。
「……幸せそうだったと。けれど、囚われたお姫様のような顔もしていた、と」
「…………」
「…いいのか?」
「…………」
待っても答えが来ないことがわかって、ヴィンセントはわずかに逡巡し、 「おまえも気付いているとは思うが」と前置きして、口にした。
「もう……長くは持たない」
それはどういう、意味か。ふたりはそれ以上語らなかった。 これ以上いても無駄だと察して、ついに彼の声を一言も聞くことなく、 ヴィンセントは踵を返した。床のきしむ嫌な音、そのあとに教会の扉が開いて、閉まり、 耳に痛い静寂が戻ったとき、セフィロスの端整な眉根が、わずかに、苦痛にひそめられた。


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