confession
-告白-


そもそもオレは祈るべき言葉を持たなかった
祈りという行為自体を知ったのは確か研究所を出てからだった。 戦場へ行く軍のトラック内で一人の兵士が胸の前で手を組み瞑目していた、 それが書物で得た知識と合致したそのときオレは初めて「祈り」を知った。 そのときは何の感慨も沸かず、十数年後にこうして自分が祈ることになるだなんて 夢にも思いはしなかった。
そう、最近よく夢を見る。おまえの夢だ。おまえはいつも目を真っ赤に腫らして泣いている。 昔一緒に暮らしていたときもオレはときどきおまえを泣かせてしまったな、 その頃からオレはどうやったらおまえが泣き止むのかをずっと考えているのだけれど、 残念ながら巧妙な手段は思いつかない。いつも胸の中におまえを抱いてやって、 髪を梳いたり背を撫でながら囁くだけ「泣かないでくれ、どうか泣かないで。」
昔は大抵これで泣き止んでくれたのだけど最近のおまえは泣いてばかり 「だめだよ泣いてしまう、だってあなたが泣いているもの。」大丈夫、オレは泣いたりしない。 きっとおまえはオレがちゃんと祈っていないからそんなに泣くんだ、 オレはいつも祈っているから、おまえが泣かないように、おまえが幸せになれるように。 祈る場所は違っても祈る言葉はいつも同じ、ずっとずっと祈っているから。 オレは、それだけでいいから。
この行為は瞑想に似ている、自分の心が深くなっていくのを感じる。 自分の声がよく聞こえるようになるとでも言うのか…… 祈り始めて初めて分かったことも多かったな。おまえに愛されたいと、思う、 オレは、おまえが決して「愛してる」を口にしない理由は分かってるつもりだった。 ああ、でも……違う、オレが愛したいんだ。そう、オレが愛したいんだ。 オレはおまえにすべてをもらった、祈りの言葉も、生きる意味も。だから愛したい。 オレのすべてで、おまえを愛したいんだ。

おまえを……愛しているよ、心から。

オレはおまえに殺されたとき、何もかもを失ったように思えたけれど、 この思い、これだけ、ほんとうにこれだけ、オレという人間のなかで、 たったこれっぽっちだけ、唯一残ったほんとうのことだとわかる。 それは、この星が終焉を迎える時まで、……きっと、永遠に変わることはない……


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