虜囚


「パティちゃんか。オレ様はてっきりクラファってつけるもんだとばっかり思ってたんだがな」
「そんなチョコボの名前じゃないんだから」
「そーかそーか。で、いくつになったんだ?」
「もうすぐ、2歳ね」
クラウドとティファの子、2年前に産まれた女の子はパトリシアと名づけられた。 ハニーブロンドと深いブルーの瞳はクラウド譲りだが、よく笑う。 久しぶりに遊びに来たシドに高い高いをしてもらってパティはきゃらきゃら笑っている。
「マリンもすっかりお姉さんだな、こりゃ」
「うん、ちゃんとお世話できるよ!」
8歳になったマリンはパティのお姉さんだという自覚が強く、進んで面倒を見ている。 クラウドとティファが安心して仕事をできるようにするためだ。
「ウチのガキも連れてくりゃよかったな。いい遊び相手になる」
「ミドくんだっけ?」
「ああ、3つになるんだが、最近やたらとあれはなに、これはなにって聞いてくるようになってよ。 好奇心ばっかりは旺盛だからなあ。パティ、おまえもお兄ちゃん欲しいだろ?」
「…あーうー」
無邪気に笑うパティにシドは少し違和感を覚えて、ティファを見ると、 ティファは「気にしないで」と笑った。
「パティは発語がまだなの」
「一言もか?」
「一応病院で調べたけど、脳に異常はないから、いずれ話すだろうって」
「大丈夫よ、パティにはあたしがいるもん」
マリンはパティを抱き上げると、本棚のところへ連れて行った。 最近よく絵本を読んであげているのだ。リビングにはティファとシドが残された。
「今日クラウドはどうしたんだ?日曜だろ?」
「クラウドは仕事が入ると休日でも行っちゃうから……」
「なんでぇ家族サービスって言葉を知らねえのかよ」
シドが思わず毒づいたそのとき、インターホンが鳴った。
「うわさをすればだな」
シドは手をひらひらと振ってクラウドを出迎えた。仕事から帰ってきたクラウドは、 シドの姿に随分驚いたようだった。
「…来るんなら知らせてくれればいいのに」
「私にも急だったのよ、驚かせようとしたんだって。何か飲む?」
「麦茶あるかな。外暑かったから」
「わかったわ、すぐ持ってくるから」
ティファがキッチンに消えると、クラウドはシドの向かいの椅子に座った。
「シド……久しぶりだな」
「パティちゃんの顔を見てみたくってよ。あの子はパッと見あんた似だが、 顔立ちや性格は奥さん寄りだぜ。よかったな」
クラウドは、かすかに微笑んだ。ふわりと、花びらが落ちるように。 それを見たシドは、あちゃあと思った。真面目に突っ込むべきか茶化すべきか迷って、 本当に迷って、馬鹿正直な性格の所為でつい本音を呟いていた。
「なんてぇ表情しやがるんだよ……」
「……どうしたんだ?シド……」
指摘したくて、けれどそれを指摘したらどうなるかシドにはうすうすわかっていたから、 シドはがしがしと頭を掻いて、テーブルを手のひらでバンと叩いた。
「クラウド、おまえさんなあ…」
しかし喉まで出かかった言葉は再び飲み込まれた。 ティファが麦茶を持って部屋に入ってきた所為だ。
「シド、どうかしたの?」
「……なんでもねえよ」
少しバツが悪そうにシドはそっぽを向いた。思わずクラウドとティファは顔を見合わせる。
「俺の顔が変だったらしい」
「そんなの昔からじゃない」
なんだかおかしくてふたりはくすくすと笑った。それを見て、シドはもう一度頭を掻いた。
「そうだティファ、今日、いい白ワインが手に入ったんだけど」
「じゃあ今夜は、久しぶりにフォンデュにしよっか?シドもいるし」
「そうだな、シド、今日食べてくよな?シド?」
「あ、ああ……」
クラウドの問いかけに僅かに遅れて答えつつ、 今夜は極力普段どおりに振舞おうとシドは決めていた。 喉まで出かかった言葉を、胸の中にわだかまらせながら。
(おまえ……本当に………)


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