二元性一元


ティファの珊瑚色の唇。強く吸い上げると、彼女は恥かしげに身じろぎする。 唾液に濡れた唇は、劣情をかきたてる。でも俺は、もう少し薄い唇の方が好き…… あのひとがするのと同じように、口腔の天井に舌を這わせると、 ティファはまるであのひとにキスされてるときの俺のようにおずおずと舌を絡ませてくるから、 俺とキスしてるとき、あのひとはこう感じているのかな、そう思って、つい興奮する。 首筋をついばむようにキス。胸にも何度も口づけを落として、いくつか痕をつける。 俺は痕をつけたくて仕方ないっていう感情を知らないけど、 あのひとはどうなんだろうと思う。俺は、あのひとには痕をつけて欲しいってすごく思う。 新羅にいたころは、抱き合うたび胸に隙間がなくなるほど所有の証をつけられた。 今はティファに気付かれてしまうから、あのひとは痕をつけてくれない。 ティファに痕をつけられた上を一回だけ強く吸い上げられたことがあるけれど、 そのときは電流が走ったみたいにすごくぞくぞくした。もっとして欲しかった。 そのときの俺の気持ち、あのひとには分かっただろうか。ティファの胸にある果実を片方、 手のひらで押しつぶすように愛撫すると、ティファが俺の乳首をちろちろ舐め始めた。 少し驚いた。ティファはそんなことめったにしない、自分から進んで愛撫してくるなんて。 少し拙い舌使いで攻める。時折甘噛みしてきたり。少し、くすぐったい。 やっぱりあのひとの方が上手なのかな。でもあのひとに舐め回されたときのこと思い出したら やっぱり興奮してきて、下半身が反応する。勃ちあがったのを下着越しに確認すると ティファは俺を押し倒して、上半身を擦り合わせてきた。時折下半身同士も擦り合わせて、 俺のを刺激してくる。やっぱり今日のティファは変だ。
「ティファ……?」
尋ねようとしたら、キスで唇を塞がれた。キスを続けたまま、下半身を擦り付け合う。 こんな愛撫、されたこともしたこともない。きっと、あのひととしたら、 もっと気持ちいいだろうな……俺は瞳を閉じて、あのひとと身体を重ねているのをイメージして、 そうしたらすごく興奮してきていつしか夢中で下半身を動かしていた。 あのひとの感じてる顔を思い浮かべるだけで俺はたぶん何回でもイケると思う。 吐息が荒くなってくるのがわかる。もう少し、もう少しで、吐き出せる……
「やめて。クラウド、お願いもうやめて」
「……え、……?」
「もうやめて……お願い……」
クラウドは訳がわからず瞼を開けて、訝しげにティファの顔を見た。 ティファはこれまで誰にも見せなかった表情で、クラウドの顔を真っ直ぐ見ない。 いや、見れないのだ。
「……他の人を愛しながら私を抱くのはもうやめて……」
クラウドの表情が凍てついた。その気配を感じて、ティファは自嘲気味の渇いた笑みを浮かべる。
「……気付いてないと、思った……?」
「…………あ……」
ティファのこんな追い詰められた顔を、クラウドは見たことなかった。 いつも微笑みながらクラウドの隣にいた大切な幼なじみの、こんな傷ついた顔…… 思慮深いティファのことだ、きっと随分前から気付いていたのだろう。 それがとうとう噴き出してしまったのだ。ティファはどれほど悩んだのだろうか、 苦悩したのだろうか。自然、青褪めた。いたたまれなかった、耐え切れなかった。 ティファの口調は決してクラウドを責めるものではなかった、けれど、 その場にいたら自責の念で押しつぶされてしまいそうで、無我夢中で寝室を飛び出した。 そのあとどう移動したのか覚えてない、気がつくと下着一枚で家の前でうずくまっていた。
「ティ…ファ。ティファ……」
頭から冷水を浴びたようだ。セフィロスとの関係がばれたから、ではない。 関係が明らかになって、ティファがどう思うか、 どれほど傷つくかを全く考えてなかった自分が憎くてくやしくて仕方なかった。
寒い……寒くて仕方ない。真冬に下着一枚で外にいれば当然か。 いや身体だけじゃない、心にもざっくりと穴が開いたようでそこを冷たい風が吹き抜けて クラウドを凍えさせるのだ。家の中に入る気もしない。 地面にうずくまると肩を抱いてかたかたと震え始めた。
「寒いよ……寒い…セフィロス……」
その名を口にして愕然とした。こんなになってまでまだセフィロスを求める 己の浅はかさに涙が出た。……違う、クラウドは認めないだろうがそれは 純粋にセフィロスを恋しがる涙だった。教会に行きたい。セフィロスに会いたい。 会って抱きしめて欲しい、もう寒くないよって…… さっき中途半端にセックスで昂ぶった所為で、身体の奥に変な熱がくすぶっている。 セフィロスが欲しいセフィロスが欲しい!セフィロスの肌が、声が、唇が欲しい、 欲しくてたまらない、教会に行けよ、ティファなんてどうでもいいじゃないか、 どうせ愛してないんだろう?セフィロスの10分の1も愛してないんだろう? ティファとセックスしてるのにセフィロスのことばっかり考えるくせに! ティファと別れよう、セフィロスと一緒になろうよ、ずっとそうしたかったんだろう? 昔みたいに、セフィロスと抱き合って眠りたかったんだろう? セフィロスだけを、愛したかったんだろう?
(……ち、…が……う………)
とめどなく涙が流れる。何を否定してるのか、よくわからない。 身を引き裂かれる感覚に涙を流しながら、クラウドは立ち上がることができない。
(セフィロスしかいらないって……セフィロスだけいればいいって ……思えたら……いっそ幸せだった…のに………)
クラウドはどこにも動けないまま、凍えた子猫のように震え続ける。 涙は一向に止まらない。もうどのくらいうずくまっているのだろうか、 次第に寒さが痛みに変化してその痛みすらもう感じなくなってきていたがかまわなかった。 このまま凍死できればよかった。自分が死ねばもう自分のことで誰かが傷つくこともないから…… 頭が霞むあまり幻聴が聞こえる。何かが走ってくる。その音がすぐ間近まで迫って途切れるまで、 クラウドは本気で幻聴だと思っていた。傷ついた瞳を揺らして億劫気に顔を上げると、 何故かそのひとは本当にすぐ傍に、いた。いつも静かなあのひとがめったにしないような 必死な顔をして、美しい銀髪は乱れて、 ずっと全力で走ってきたのか荒い呼吸が白くけぶっていた。
「……クラウド…クラウド……」
「…セ…フィ………」
――誰が誰のことを愛するのか、誰が誰だけを愛するのか。
もう、どうでも……よかった。


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