sublimation
-純化-


クラウドは思う。自分がここにくるといつも彼は跪いて祈っていた気がする。 「ずっと祈っていた」と言っていたけれど、彼は何を祈っていたのだろうかと。
「……もう来ないと思っていた」
跪いていたセフィロスは優雅としか形容できない動作でゆっくりと立ち上がり、振り向いた。 表情は無かった。矜持の高い人だから、感情という感情を押し殺すので精一杯なのだろう。
「………ティファに、赤ちゃんができたんだ」
数日振りの対面。今までのように、すぐに抱き合ったりはできなかった。 一定の距離を保って、ふたり分の視線で互いを縫い付け合っている。
「俺、あんたを、愛……」
言いかけて、言葉が喉を通らないのを知った。クラウドは幾度かかぶりを振って、言い直した。
「俺、あんたが好きだ」
「…………」
「でも、俺にとって、ティファは…だから……」
ずきん、ずきん、あの正体不明の疼痛に胸を押さえた。 けれど負けまいと必死にセフィロスを見据えて、言葉を紡ぐ。
「俺、セフィロスと……こうやって会うことしかできない…… 一緒に寝てあげられない……死ぬほど好きなのに」
クラウドの表情が苦痛に歪む。瞳には涙が溢れて、今にも零れ落ちそうだ。
「こんなやり方、間違ってるって思う?……でも俺、 セフィロスに会いたくて……この数日間気が狂いそうだった ………好き…どうしようもなく好き……」
クラウドが気付くともう既にセフィロスの腕の中にいた。 背がしなるほど強く抱きしめられた。狂おしいほど求めた体温を感じて、 堰をきったように涙が零れた。
「ごめんなさい……セ、フィ…ごめんなさい………」
クラウドの額に、目じりに、頬に、セフィロスは幾度となく唇を落とす。 どうか、涙が止まるように。
「謝るも何も、オレの存在理由はおまえだ」
「………セフィ……?」
「おまえが要らないと言っても、オレはおまえのために生きる……」
ゆっくりと唇が重なった。舌は入れずに、唇の柔らかさを感じあう。ひどく優しいキス。
独占欲が無いといえば、完全に嘘になる。クラウドがその手で他の人を愛していると思うと、 ………だけど、嫉妬心が遠く霞むほど、クラウドが愛しい。クラウドが愛しい…… この純粋な思いは、清濁総てを飲み込んでセフィロスの根源になった。
「愛してる……これ以外の感情は、雑音に過ぎない」
そう言って再び唇を重ねる。唇を軽くついばんだりしながら、軽く重ねたり、深くしたり、 舌を使わない分、唇の感触が際立つ。無垢なキスを続けるうちに、 クラウドの涙は漸く止まりかけた。そして、胸の中にわだかまっていた痛みが 麻酔をかけられたように引いていくのを感じた。その代わりに、セフィロスに触れているところから 違う感覚があふれてくる。
(好き……セフィが好き)
クラウドの中の思いが純化されていく。これまでの雑多でそれでも激しかったいくつもの思い、 大きな罪悪感と、少しの矜持、憧憬と嫉妬、思慕と憎しみ……それらが波に侵食されるように 純化されていく。ただひとつのことに。もうどうだっていい、セフィロスが愛しい。 ただ、セフィロスが愛しい……まるで今、初めて抱き合っているような錯覚を起こした。 こんなに純粋な愛しさをあふれさせながら身体を重ねることが、これほどに幸福だったのだと、 知った。今ならきっと、自分の思いを素直に伝えることができる気がする。 でもそのための言葉は、どうしても喉を通らなかった。
「セ…フィ……」
「どうした?」
「今日ね、仕事はずして……ティファには、遠くに出かけるって、言ってあるから……」
クラウドは顔を赤らめて、胸が高鳴るのを感じながら、セフィロスを求めた。
「気が狂うまで……」
生まれたままの姿で、深く、繋がりあう、身体。口を突いて出る歓喜の喘ぎが、 どこか遠くで聞こえる。気持ち良くて、気持ち良くてどうしようもない。 性感帯を刺激されてこんなに気持ちいいのか、セフィロスに抱かれてるって思うからなのか、 何百回も愛してるって言われてるからなのか、わからないけれど、ああきっと全部。 あまりにも気持ちよくて自分が何て喘いでるのかもよくわからなくて意識は朦朧としてくるけれど、 セフィロスが好きでたまらない、って感じるほど、 どうしようもないほどの幸せが溢れてくることはわかる。体中が喜んでる。 しかもそれは際限なくどんどん強くなって、もうそれ以外感じられなくなってくる。 真っ白に塗りつぶされていくように。
(ほんとに……気が狂うよ……)


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