オレたちの日常



「俺らってさ・・・結構働いてるよなぁ・・・」
「・・・・・お前はともかく、オレはきちんと仕事してるぞ、と」
「うるせーな、俺だってちゃんと仕事してるっつーの!」
「そうかな、と。今日もクラウドに始末書の作成頼んでたのは誰だったかな、と」
「ばっ・・・あ、あれは・・・他にも書かなきゃいけねぇ書類があって ・・・んで、その時たまたまクラウドの手が空いてそうだったから ちょっと頼んだだけで・・・って、何でお前そんなこと知ってんだよ?!」
「タークスの情報網をなめてもらっちゃ困るんだぞ、と」
「・・・あのな、そんなすげぇ情報網ならもっとマシなことに使ってくれよ・・・」
「社内環境を調査することもタークスの立派な仕事なんだぞ、と」
「・・・・・・・そうかい・・・」

陽が落ちてすっかり暗くなった街並みに、 煌びやかなネオンがあちらこちらでその存在を主張して、 通り行く人々に一時の休息と開放感をもたらしてくれる場所を指し示していた。 大抵は『〜's bar』とか『〜pub』といった名前の店で、外装も似通ったものが多く、 ほとんどの者はそうした店に入っていく。

「おっちゃん、俺、ビールおかわりね!生だよ、生!」
「それから枝豆をもう一皿欲しいんだぞ、と」
「はいよ!」

店主のものと思われる大きな声が響く店内。 入り口にぶら下げられた暖簾には大きな文字で『酒処』と書かれ、 その脇には『焼き鳥』の字が入った赤い堤燈が数個吊るされている。 それほど広くはない店内にはカウンター席とテーブル席があり、 壁を見ればメニューと思われる紙が中流階級には嬉しい値段と共に貼られてあった。
そう、ここはミッドガルでも珍しいウータイ風の居酒屋で、 知る人ぞ知る隠れた名店なのである。 ウータイから取り寄せる銘酒や店主自慢の料理の数々は、 一度口にすれば虜になること間違いなしとまで言われ、 値段の安さと相まって最近注目されている店の一つだった。
それでも店内がさほど混雑していないのは、時間がまだ早いということに加え、 先程から大きな声で話をしている二人組みの服装から、 入ってきた客がそれを見てなぜか引き返しているという理由もあった。 しかしそんなことなどお構い無しの二人組みは、 やや小さめの二人用テーブルに向かい合って座りながら、 片手にビール、片手に枝豆を持ちながら、思いついたことを思うがままに喋っているのである。

「で、最近はどうなのかな、と」
「レノ・・・お前その質問は一番答えづらいって分かってて聞いてるのか?」
「さあな、と。でもザックスなら何でも答えが返ってきそうだけどな、と」
「ふん、まぁいいけどな。けど・・・最近はエアリスとも進展ないからなぁ・・・」
「別に花売りのお嬢ちゃんとのことじゃなくてもいいんだぞ、と」
「ってゆってもなぁ・・・クラウドはいつも通り旦那にベタ惚れで、 時々は俺に相談持ちかけてくるけど、ほとんど痴話喧嘩の仲裁やってるだけだからな。 面白いネタもこれと言ってないし・・・」
「・・・つまらないな、と」
「そういうお前はどうなんだよ、レノ?」
「ま、オレも似たようなモンかな、と。 ツォンさんの指示が多くて最近仕事が増えて困ってるんだぞ、と」
「ああ、あの人厳しそうだもんな・・・」
「調査とかちゃんとした仕事ならオレも文句は言わないんだけどな、と・・・・・」
「何だよ、正規の仕事以外にもやらされてんのか?」
「副社長のワガママにお付き合い・・・なんだな、と」

そこで言葉を区切ると、レノは手元にあったビールを一気に飲み干し、 空になったジョッキを反対の拳と共にテーブルに叩きつけた。

「っつーかタークスは副社長のお守りじゃねぇんだよ、と」
「お前がそこまで言うなんて珍しいじゃねぇか。ってことは相当・・・」
「ザックス!よく聞いてくれたな、と。今日だっていきなりだったんぞ、と。 副社長室に呼び出されて何を言われるかと思ったら、 『ショートケーキが食べたくなったからミッドガル一美味いショートケーキを買ってこい!』 だとよ、と。しかも似たような内容でここ1週間、 毎日5 回は呼び出されてるんだぞ、と・・・」
「げっ!パシリを1日5回?!・・・けど、あの副社長なら言いそうなことだよな・・・」
「実際に言われてるオレの身になれよ、と。 お前もしサー・セフィロスにそんなこと言われたらどうするんだよ、と。 特にクラウド絡みだったらあの人言いかねないと思うけどな、と」
「・・・あ・・・・・・ははは・・・」
「ザックス?」
「実はもう言われてたり・・・・・」

ザックスも手に持っていたビールを一気に飲み干した。 そこへタイミング良く、さっき追加注文したビールを店主が持ってきたので、 ザックスはそれも半分まで飲むと、ぷはっという声と共にジョッキをテーブルに置き、 一緒に運ばれてきた新しい枝豆の山へと手を伸ばす。

「やっぱビールは生だよなぁ。でもってつまみは枝豆! これぞまさに黄金コンビってやつだな!」
「で、英雄様にはどんな指令を下されたのかな、と」
「お前ほどじゃないけど・・・・・ クラウドがまだこっちに来たばっかりの頃なんだけどな、 あいつ鞄一つしか荷物がなくてさ。で、最初は旦那が服を貸してやってたんだ。 でも旦那のサイズじゃあやっぱりデカイわけよ。 だけど買いに行こうにも旦那ってそういうの疎いっていうか、 自分で買ったことなんてないから勝手が分かんねぇだろ? だから結局俺に回ってくるんだよな、そーゆー役回りがさ・・・」
「それは仕方ないともいえるな、と」
「でもよ、それだけじゃねぇんだぜ?夜中に突然電話かかってきて 『クラウドが風邪引いたから栄養のあるもの買って来い』だとか 『体調の悪いクラウドに代わって書類をまとめろ』とか・・・ 『クラウドが熱を出したらしい』って言って遠征先から帰ったこともあったっけ・・・ 残った俺に仕事全部押し付けてよ・・・・・」
「やっぱり全部クラウド絡みのことなんだな、と。ま、 それが英雄さんの生きがいみたいなモンだしな、と」
「だから俺が困るんじゃねぇかよ・・・」
「まあまあ、そう文句言うんじゃねぇよ、と。 お前だってクラウドの世話焼いてる時は結構楽しそうっつーか、 嬉しそうな顔してるんだぞ、と。自分で気づいてないのかな、と」
「いや・・・まぁその自覚はあるけどよ・・・ 何て言うかクラウド見てるとつい手を貸したくなるっていうか、 助けてやりたくなっちまうんだよな。けどよ、 それ言っちまったら旦那に一生パシリでこき使われそうな気ぃするだろ?」
「とか何とか言って、お前、英雄さんの下・・・じゃないな、 英雄さんの隣で働くの、結構楽しんでるだろう、と」
「あ・・・バレてる?」
「バレバレだぞ、と」

酒を飲みながら他愛無い話に花を咲かせ、二人はいくつものジョッキを空にしていく。 そうしていつしかグラスの中身が黄色から無色透明に変わる頃、 二人の顔にも少しずつ変化が現れ、喋る声の大きさと回らなくなった呂律に、 かなり酔いが回っていることが見て取れた。
話の内容もそれまで喋ったことを繰り返していたり、 明らかに仕事の愚痴と思われることだったりと、 身の内に溜めていたストレスを発散させるかのような勢いで、 ザックスとレノはまさに酔っ払いへと変貌を遂げていた。
二人が入店してからかなり時間は経過していて、店内も随分と賑わい始めていた。 周囲の客はざわざわとしていたので、 普通に飲んでいれば多少は気になったりもするところだろうが、 この二人はやはり自分達の話に夢中な様子で、 あまり周囲に気を配るといったことはないようだった。

「っつーか旦那はホンっトに人遣いが荒いんだよなー」
「あーその気持ちは分かるんだぞ、と。ツォンさんも同じだからな、と」
「ぜってー俺らってパシリにされてんぜ?」
「全くだぞ、と。しかもそれでいて完璧主義者だからな、と」
「そうそう!あんなんじゃいつかぜってーハゲるよな?」
「っつーかすでにツォンさんは結構キてるんだぞ、と」
「うぉ?!マ、マジかよ?!俺あんま喋ったことねぇから分かんねぇんだよな」
「タークスの間じゃMって呼ばれてることもあるくらいだぞ、と」
「だってあの人まだ若いんだろ?やっぱ副社長のワガママのせいか?」
「多分な・・・と。ツォンさんは副社長を中心にして全てを考える人だからな、と。 副社長のためなら自分や周りがどうなろうが知ったこっちゃないって感じなんだろうな、と」
「それで若ハゲかよ・・・結構キツイよなぁ、それって・・・」
「でもツォンさんはあまり気にしてないっぽいけどな、と」
「そっか・・・まぁ本人がよけりゃいいけどよ・・・」

空になった互いのグラスに、ザックスが透明の液体を注ぎいれる。 薄く色の付いたデキャンタから、同じような薄い色の付いた小さなグラスに 小気味いい音を奏でてウータイの銘酒が注がれた。 淵のギリギリまで注がれた酒を、二人は静かに一口ずつ喉の奥へと流し込む。

「かぁ〜!やっぱ生の次はポン酒だよなぁ〜!」
「ザックス、オヤジくさい発言はやめろよな、と」
「いいじゃなねぇかよ〜。仕事帰りの一杯くらい幸せに飲ませろ」

完全に酔っ払っている二人には、今その場で思いついたことしか言葉にすることができず、 まして周囲に気を配ったり、誰かが近づくということがあっても 気にかけることすらできない状態だった。

「ハゲっていえばなぁ、旦那もあれは将来的にくると思わねぇ?」
「ああ、そうかもしれないな、と。あんなに前髪立ち上げてたら 生え際痛みそうだしな、と」
「それによ、旦那ってあれで結構気ぃ遣ったりすんじゃん。 まぁクラウドの場合は特にだけどな」
「それも分かるな、と。やっぱり大将だけあって色んなこと考えなくちゃいけないしな、と」
「そういうこと。まぁ基本的にデコ広いってのもあるけどな!」
「ザックス、それは言いすぎだと思うぞ、と」
「そっか?俺的には科学部門の宝条博士っぽく なっちゃうんじゃねぇかって睨んでんだけど」
「宝条博士か・・・あそこまでいったら完全に否定できなくなるな、と」
「でもハゲた旦那はあんま見たくないかもなぁ・・・クラウドも悲しむだろうし・・・」
「いや、でも案外クラウドは受け入れるかもしれないぞ、と」
「う〜ん・・・・・・・確かにあるかもしれないな」
「最近じゃカツラもいいものがたくさんあるらしいしな、と。 あ、いっその事英雄さん坊主にしちまえばいいんじゃないのかな、と」
「坊主っ?!旦那が?!待てよ、レノ!それはちょっと想像できねーって!」

話の方向が少しずれ始めたのと同時に、 先程までざわついていた店内が波を打ったように一気に静まり返った。 そして二人が座っていたテーブルを中心にしてすうっと温度が下がったようにも感じられる。

「あれ?何か急に寒くなってねーか?」
「そんな気がするな、と」
「おーい、おっちゃーん!少し寒すぎ・・・・・・・」

『少し寒すぎるから温度をあげてくれ』と店主に頼もうとザックスが カウンターの方へ顔を向けた時だった。彼の目の前に映ったのは、 ぽっちゃり顔の店主ではなく、なぜかカウンター席に座ってこちらを見つめている、 ここにいるはずのない自分達の上司の顔だった。

「あ・・・・・あれ?・・・・・旦那・・・?」
「え・・・っと・・・ツォン・・・さん?」

引きつったザックスとレノの顔とは反対に、 二人の上司であるセフィロスとツォンの表情はかなり険しく見える。 そしてよく見れば、彼らの隣にはそれぞれ金髪の小柄な青年が座っていて、 一人は面白そうに、もう一人は困ったような顔で同じように ザックスとレノを見つめていた。

「み・・・みなさんお揃いで・・・こんな所で何を・・・」

乾いた笑いを浮かべながらどうにか口を開けたのザックスだった。 あまりの衝撃に酔いも一気に吹っ飛んでしまったものの、 やはりこの状況に頭はまだついてこないらしい。上手い言葉が全く出てこなかった。

「酒場に来て酒を飲む以外に何をするというんだ、この阿呆が」
「あのね・・・ツォンさんが美味しいお酒が飲めるお店知ってるって聞いたから・・・」
「私がクラウドに教えてやったのだ。セフィロスと行けとな」
「でもお二人とも場所をご存知なかったので、 私が案内役となったのです。結局ルーファウス様もご一緒となりましたがね」

4人それぞれの説明で一応納得をしたものの、 やはり自分達が酒の肴にしていた当の本人達がこうして突然目の前に現れるのは衝撃だし、 はっきり言ってどうしていいか分からない。 もしかしたら今までの会話も聞かれていたかもしれないのだから。 そう思うとザックスとレノは言いようのない不安と焦りに見舞われた。

「あのぉ・・・一つ聞いてもいいですか?みなさんは一体いつ頃からこちらに・・・?」

上手く声の出ないレノに代わってザックスが正直な疑問を浮かべる。 するとにやりという音まで聞こえそうな笑みを浮かべたセフィロスとツォンの口から、 衝撃の言葉が二人に告げられた。

「ザックス・・・一体誰のデコが広いんだ?」
「タークス内ではMという名の人物がいるのか、レノ?」
「・・・えぇっと・・・」
「・・・知らないぞ、と・・・」



かくして隠れた名店『酒処』ではこの日、開店以来最高の売上高を記録した。 もちろん支払いが全てザックスとレノに任されたことは言うまでもなく、 この日店内にある全ての酒がビールから幻の酒と言われるものまで全て なくなったこともここに付け加えておく・・・。



−End−


TOMATO様のサイト『Happy-Happy』にて
フリー配布されていたものを かっさらってきてしまいました。
TOMATO様はセフィクラを主に書かれるのですが
こんな異色のものがあってもいいなあと思いました。
個人的にザックスとレノは仲良しであって欲しいです。
TOMATO様、可愛いザクレノをありがとうございましたv
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