どうして、惹かれてしまったんだろう……答えの無い問いを繰り返して、
セフィロスは腕に抱いたクラウドの、傷だらけの身体をそっと撫でる。
クラウドに意識は無い。
眠っているときだけがクラウドにとってはおそらく唯一の安寧のときだった。
静かな寝顔を見つめながら、クラウドの身体についた赤黒い痣を撫でた。
すると手首のバングルにはまっているマテリアとセフィロスの手のひらがぽうっと光って、
痛々しい痣がひとつ消える。
ひとつ、またひとつ、傷を癒していく。少しずつ、
クラウドの肌はもとの滑らかさを取り戻していく。けれど
、クラウドが目を覚ましたらきっとセフィロスはいつものように、
クラウドを嬲っては傷を増やすのだろう。
『…っく……う……ひっく…』
「クラウド……」
身体中を撫でて癒していたセフィロスは、
おもむろに目を細めてクラウドの薄く開いた唇に顔を寄せようとして、
けれど直前で顔を止めて、切なげに瞳を閉じた。
『大好、きって……言いたいの……クラウド、に…』
「…………」
『…キス…したい…よ……』
「……ああ…」
『愛し、てる…って、…言いたい……』
「…そうだな……」
血の気のないクラウドの唇を指でそっとなぞる。
…柔らかい……涙が出そうなほど柔らかい。
セフィロスはその指をゆっくりと自らの唇に押し当てた。
少しでもクラウドの唇を感じようとして。
もし、願いがひとつだけ叶えられるとしたら……
どうか優しい愛情だけでクラウドを包んであげたい。
細い身体を柔らかく抱きしめて、触れるようなキスをして、愛してるって囁いて、
笑顔に笑顔を返して……
自分には、そんな資格がない……
狂気と隣り合わせの想い。ただただ愛だけで愛せたら、どんなに幸せだろう……
その簡単なことが、できない。それはきっと、自分は創られたモノだから。
魔晄炉にいたモンスターのように、心が無いから……
それでも、…それでも、クラウドが欲しい。どうしようもなく欲しい……
他の何を犠牲にしてもいいから。クラウドの心が…欲しい……自分を想って……
愛じゃなくていい。愛じゃなくていいから……!
「クラウド……オレ、どんどんおかしくなってく……怖い…もう止められないんだ……」
恐る恐る両手でクラウドの頬を包み込んで、意識の無いクラウドに呼びかける。
セフィロスのその表情は、極北の氷のように何の色も映していなくて。
ねえ…クラウド、今何の夢を見てるの?いつもうつろな瞳で何を見てるの?
オレだけを見てよ。オレのことしか考えないでよ!オレのことなんか考えたくもない?ならそう言ってよ、
その瞬間オレは生きているのをやめるから……
「お願い…駄目ならオレを殺してよ……」
そのとき……クラウドのまぶたがぴくんと動いて、ゆっくりと目が開かれた。
その力ない青玉を目の当たりにすると、セフィロスの中からまた、
ふつふつと凶暴な何かが湧き上がって僅かな正気すら押し潰していく。
そして反比例するように冷たく凍り付いていく表情……
だが次の瞬間、鉄面皮のごとく凍りついたセフィロスの顔に、一筋、小さなひびが入った。
クラウドのぼんやりとした目が柔らかく細まって、頬がゆるみ、口端が僅かに上がる……そう、
クラウドが……微笑んだのだ。
第五章 終了
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