愛情を確かめ合うためのキスから、情欲に塗れたキスに変わるのに さほどの時間も要さなかった。愛情に性欲が注ぎ込まれて混在して、 どうしようもなく互いを求め合う衝動が生まれる。
とうにふたりとも一糸まとわぬ姿、密着させた上半身下半身、 腹部で擦れあう怒張した塊が渇望に涙を流す。
「欲しい……欲しい、よ……あぁ…セフィ……」
キスの合間、とぎれとぎれに訴える。薔薇の花びらのような紅い舌が溶け合うほど絡み合い、 長くて濃密なキスに既に息も絶え絶え、 どれほど欲しがっているか伝えたくてクラウドは 硬くそり立った欲望を何度も相手のそれに擦りつける。
それだけでゆるやかな性感が這い上がってくるのを感じてキスの狭間に漏れる吐息が 次第に激しくなっていく。
「はぁ……は…んん……あっ……ん…」
覆いかぶさるセフィロスは腰から尻にかけてを幾度となく愛撫していた左手を 双丘の谷に滑り込ませる。つぷりと侵入するあまりにも性急な行為、 それはむしろ喜びをもって迎えられ、その間にも唇は一瞬とて離れることはなく、 指が沈むたびに漏れる喘ぎは唇と舌でもって吸い取られる。
およそ5年ぶりの中は狭く、けれど広げられる悦びは覚えていて、 まるで吸い付くような動きをみせる。 濡れているのは何も前の器官から零れる液体の所為だけではないだろう。
指先が性感帯をつついて内壁が収縮すると、 肉襞が絡みついて締めつけられたときの感覚がよみがえり セフィロスは背筋が無意識に震えるのを感じた、先に根をあげるのはどちらか。
「……入れて……いいか?」
「…はやく……も、我慢…できない……」
まだ完全に慣らしていないと思いながらも、 抑圧されてきた愛情と抑圧されてきた性欲が生んだ奥底から来る欲求には勝てなかった。
指を引き抜いて足を開かせて、ほとんど間をおかずに衝撃がやってくる。 クラウドの表情が苦痛にゆがむ。 先端だけどうにか含んで、セフィロスは一旦動きを止めた。
「力を抜いて……」
低いかすれ声。聞いた側は安堵半分興奮半分、けれど身体は弛緩して、 そこへすかさず押し進める。根元まで受け入れて、ふたり息を吐く。
あまりの衝撃にクラウドの意識感覚はひどく混沌としていて、 それでも繋がったところからじんじんと熱が伝わってくるのがわかる。
セフィロスのものが身体を満たしている。時間をかけてそれを心が実感したとき、 クラウドはあふれてくるものを抑えることができなかった。
「クラウド……?」
クラウドの両目がぽろぽろと涙をこぼし始めた。
「クラウド……つらいのか?」
クラウドは首を横に振り否定した。
「ちがう………嬉しいの……」
細胞のひとつひとつが打ち震えているのがわかる。 ひとつになれたことが嬉しい。満たされたことが嬉しい。 それは欠けたものを取り戻したことによる何ものにもかえがたい喜びだった。
ともすれば蟻地獄のように崩れていくクラウドの脆い内側をしっかりと埋めてくれるもの。 力強いセフィロスの魂。それをまぎれもない自分自身の敏感なところで包んでいる。
「キスして……」
セフィロスの首に手を回してねだる。 唇がふれあうとき閉じたまぶたからまた雫が流れる。涙は当分止まりそうになかった。
「セフィの…すごく熱い……」
「おまえの中も熱い」
「不思議だね……」
「そう、だな」
じゃれあうようなキスの合間に言葉を交わす。 口付けは次第に深くなりやがて大きな水音を立てて絡めあう。 クラウドに舌を強く吸い上げられたときセフィロスはゆっくりと腰を揺らし始めた。
「んぅ……はっ……あ…」
もっとしてほしくてクラウドの腰が自然と動き始める。 セフィロスの動きにあわせて腰を上下に揺らすとぞくぞくとした快感が 下半身から脳髄へ駆け上がるのを感じた。
「やぁ……もっと…激しく、して……」
答えるように腰の動きが激しくなる。クラウドが反応を示す場所を集中的に突く。 突かれるたび、クラウドの背が弓のようにしなる。 ちょうど感じるところに当たるのか、全身がわなないて、堪らない、と腰をくねらせる。
「セフィ……あぁっ…どうしよう……すごい…あぁ……」
セフィロスをもっと感じたくて繋がった場所に意識を集中させると、 どうしてもセフィロスを締め付けてしまって、 そのたびにセフィロスが大きくなって、 クラウドは戸惑いながらも突き上げられ擦られる快感に次第に深く溺れていく。
「あぁん……きもちいいよぉ…セフィ…セフィロス……」
何度も何度も名を呼びながら、潤んだ半開きの目でセフィロスを見つめる。 その扇情的な表情にセフィロスは確実に追い詰められていく。
もっとクラウドのその表情が見たくて更に奥まで突き立てた。 愛しくてする行為が愛する者を震わせることをなによりも甘美に思いながら。
「ああぁっ!……セフィ…あ、あぁ……いいっ…いいよ…ぉ…」
陸にあげられたばかりの魚のように断続的に跳ねながらクラウドは乱れる。 セフィロスの攻めるままによがり、肢体をくゆらせ、 次第に荒くなるセフィロスの吐息にも感じてしまって、 このまま再びおかしくなってしまうのではないかと恐怖すら覚えた。
「もう………っちゃう…」
またクラウドの目じりからしずくがこぼれた。 何によるものなのかきっともう本人にもわからない。 セフィロスの汗ばんだ背中に回した手の爪をたてて限界を訴える。
「出して、いいぞ」
「ああ、…あああっ!あっ……あ!」
ひときわ高い嬌声をあげたとき、白濁があふれた。 それは濃く、量も多く、胸から腹部にかけて散ったそれを眺めてセフィロスは目を細めた。
脱力したクラウドは荒い息を繰り返す。その頬にセフィロスは軽くキスを落とした。
「セフィ……まだ、いってない……?」
「ああ」
セフィロスは、ふ、と笑うと、一旦クラウドから抜いた。 クラウドを四つん這いにさせ、後ろから入れようとする。
「だめ、あっ、いったばかりだから……」
「……大丈夫」
優しい声をかけ、左手がクラウドの股間に滑りこみ柔らかく愛撫すると、 その刺激に感じて、セフィロスの低い声にも感じて、一瞬締め付ける力が緩む。 その瞬間を狙って奥まで沈めていく。
「ひ……っ」
根元まで入りきって、その圧倒的な質量に酩酊する。 間をおかずにセフィロスが攻め始める。 クラウドの最も敏感な箇所をさぐりあて突き刺して、 前は手のひらで亀頭を包み込んで揉みしだく。その動きには容赦がない。 いったばかりのクラウドに無理やり快楽を飲み込ませる。
「や、め……い、ああぁ……っあああ!」
襲い掛かるあまりの快感にクラウドは声をかみ殺すことも忘れてあふれさせ、 シーツにしがみついて脳天からつま先までかけめぐる電流にひたすら耐える。
「いいっ……!あ、あぁ…すごい……ああっ…!」
弱点だけを激しく攻められて、クラウドは無我夢中でシーツに顔をこすりつける。 前と後ろ両方の刺激、まるで全身が性器になったような感覚で、 身悶えるほどの性感に狂気じみた悲鳴をあげ続ける。全身が震えて止まらない。 髪を振り乱して何度も海老のようにびくびくと身体をしならせる。
「あああ……あっ、ああああっ!…あっ、あ、ああぁ!」
「感じるか?」
喘ぎばかりを吐き出す口からは答えることが叶わず、 こくこくと頷いて言葉の代わりにした。あまりにも感じていてそれで精一杯だった。
けれどセフィロスの言葉はとどめのようにクラウドを襲った。
「オレも……すごく、感じる」
その息遣い、その一言が、クラウドに火をつけた。ああ反則だ、と クラウドはぼんやりと思った。もう何も考えずにセフィロスを感じたい。 そういう気にさせた。
飲み下すのを忘れた唾液がシーツに染みを作るのも気にしないで、 少しでもセフィロスを飲み込もうと必死に腰を押し付けた。
五感で得たものすべてが快感に変わってしまうような錯覚に陥って、 クラウドは泣きながら限界を伝えた。
「ああ……ぁああっ!…も、死ぬ……死んじゃう……!」
「死ぬがいい」
淫猥に収縮する内壁に締め付けられ、息を詰まらせながら、セフィロスが言い放つ。
「死ぬがいい。何度でも殺してやる」
「あああぁ……ああっああああ!」
最終段階。深く強く、えぐるように突き上げ、耳を犯す濡れた音、 互いのせぐるような呼吸音。急激にのぼりつめる。 気がおかしくなるような嬌声をあげて腰はおろか全身を痙攣させてクラウドが頂点に達する。
セフィロスの手のひらが精液を受け止めると同時にきつくきつく締め上げられ、 セフィロスは目を閉じてその時を迎えた。
思いに比例するかのように大量の精を注ぎ込む。 射精と痙攣が静まるまでの時間は決して短くなかった。 何度も自分の中のセフィロスが震えるのを クラウドは遠くなった意識の下でうっとりと感じる。
その後も余韻を味わうようにセフィロスはクラウドの中から動こうとしなかった。 しばらくたって徐々に意識を浮上させてきたクラウドが声をかけた。
「セフィ、ロス……?」
繋がったまま、セフィロスは後ろからクラウドを抱きしめて ゆっくりとベッドに横になった。
セフィロスは自身を包み込むクラウドの温かさを感じて、 クラウドは自分の中にいるセフィロスの熱さを感じている。
今、最も敏感な器官で、互いを感じあっている。 クラウドはそれによってひどく安らかな気持ちになるのを感じた。
「熱い、ね……」
セフィロスのものを、この身体で、大切に包んであげている。 それだけで、こんなに幸福になれるなんて。
「このままでいい……?」
「ああ」
「ずっと……抱きしめていて……」
セフィロスはクラウドを抱き込む腕に力を込めて、 なお深くまで自身を押し込んだ。はあっ…とどちらともなく吐息つく。 締め付けて、時折収縮する内壁、 まるで魂を包み込まれている感覚をセフィロスはじっと確かめる。
「セフィロス……」
「どうした?」
「俺……おかしくなってた時のこと、少し覚えてる」
「…………」
「セフィロスの声が……遠くのほうからずっと聞こえてた」
セフィロスで満たされた海の一番底で、うずくまって世界を閉じていた。 セフィロスが強引な手段でクラウドを現実世界に引きずり上げるまで。
「ごめんなさい……」
「謝らなくていい」
謝ることじゃない、とセフィロスは言う。 すべては5年前に狂気にとらわれた自分が悪いのだと。
「俺はただ、セフィロスがいないのが怖かった」
5年前からずっと。正気に戻るのも記憶を取り戻すのも怖かった。 自分から狂いたがるほど怖かった。
「もう離れるの、やだ……」
セフィロスは左手でクラウドの右手をとり、 指を絡め合わせると、ぎゅっと握り締めた。 少しでも安心できるように。
そしてセフィロスは宣言する。 自分の犯した罪はもう拭いようもないけれど、それでも前を見据えて、先に進むために。
「ずっと一緒にいよう……」
セフィロスの言葉に、クラウドの身体の力がふっと抜けた。 クラウドがセフィロスの手をつかんで自分の頬に当てさせた。 そしてその頬が濡れていることをセフィロスは知った。
「…嬉しい……」
嬉しいのに涙が止まらない。それがひどく不思議で、 かつ必然であるように思えることがもっと不思議で。
「ごめん……ティファ。こんなに幸せで……ごめん」
「クラウド……」
「ティファにも……みんなにも、謝りに行かないと。 ぼんやりとしか覚えてないけど、すごく心配かけたし、迷惑もかけた……」
「クラウド」
その時突然、セフィロスが身体を上げたかと思うと、 クラウドの足を大きく広げてひっくり返した。 あまりにいきなりのことでクラウドは混乱しながらセフィロスを見る。
「え、え?…どう、して……セフィ…大きくなってるの……?」
対面になった所為で相手の顔をしっかり見ることができる。 その表情を見てクラウドはどきりと身体を揺らした。
抱くときの表情だったから。
「おまえが他の奴の名を出すからだ」
セフィロスがぐりり、と腰を押しつけてくる。 いつの間にか質量を増したその感触にクラウドは戸惑いながらも 心拍数が上昇することを止められない。
「なん、で……?」
「おまえがオレ以外の人間の名を口にしたとき、 おまえがオレ以外の人間のことを考えていることが許せなくなった。 おまえはオレだけのものだと主張したくなった。そうしたら」
ふと、セフィロスは少し困ったような表情を見せた。
「どうしようもなくおまえが欲しくなった」
「あ……」
クラウドは自分の顔が紅潮していくのを感じた。 セフィロスが嫉妬を感じてくれたのが嬉しくて、 自分もまた興奮しているのだと。 そのことを理解するより先にセフィロスが動いていた。
唇を奪って、手のひらが首筋から胸、脇腹を通って腰、太ももを滑っていく。 それと同時に、腰を小刻みに揺らし始めて、繋がった箇所が音を立てて擦れる。
「あ…っ、だめ……!」
思わずクラウドが制止の声を上げる。
「やめて欲しいのか?」
するとセフィロスは動きを止めた。僅かに微笑んでいる。 クラウドは、少し拗ねたようにセフィロスを見つめていたが、 やがてセフィロスの頭を引き寄せてキスをねだった。
「やだ……」
まぐわう影に絡み合う四肢、今しばらくの間、解かれることはない。
それを見守るのは、きっと………



“ねえ……あのふたりなら、願い、かなえられるかしら?”

     “ああ……あのふたりなら、きっと、な”


-End-


ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。
これで、このお話で書きたいことは全て書ききりました。
といっても、+αに関しては、クラウドの嬉し泣きと
「死ぬがいい」と「やだ」さえ書ければ満足だったんですけどね。
何か思うことがあったら、感想をきかせてくれると嬉しいです。

Galleryに戻る? or 後編に戻る?