嵐のような熱情が過ぎ去った後、ふたりは同じベッドでシーツを纏い寄り添っていた。
やっと落ち着いてきたところで、セフェリスが今回のことについてグレミオに問いかける。
「それで……どうしていきなり女の身体なんかに?その額の模様の所為?」
「はい、たぶん。…ジーンさんに、何か不思議な紋章を宿されたんです。
……なぜでしょうね、彼女は見抜いていましたよ。男である私が、
カスミさんやジーンさんに……女性というものに、嫉妬していたことを」
その言葉を受けたセフェリスはきょとんとした様子で、大きな眼をぱちくりとさせた。
「……そりゃあ、あんなお色気むんむんなジーンに劣等感を抱くのはわかるけど、…なんでそこにカスミが出てくるの?」
今度はグレミオが目を瞬かせる番だった。てっきり、セフェリスはカスミをそういう目で見ているものだと……
「え……だって、その…彼女は…」
何か言いづらそうにしているグレミオを見て、セフェリスは何となく感づいた。そして心から安堵した。
この頃グレミオを苦しめていたものの正体が分かって、ほっとしたのだ。
「なぁんだ。何を悩んでるのかと思えば……カスミとは、そんなんじゃないよ。確かに仲は良いと思うけど……
兄弟、いや…大事な友達、って感じかな?」
「じゃあ、私…は?」
まだ怯えを含んだ瞳で問いかけてくるグレミオを見つめながら、セフェリスは一応、考える『フリ』をした。
「グレミオは…お母さん、だね」
きっぱりとそう言うと、グレミオはさっと無表情になり、目を伏せた。
「………そう、…ですか……」
消え入りそうな声で呟くグレミオの頭を、セフェリスは思いっきり小突いた。
まさか本気に受け取られるとは予想していなかった、
ほんの少しの後悔を胸に留めながらセフェリスは目いっぱい明るい声で笑いかける。
「ばか、今更どうして真に受けるんだ?冗談だってば、冗談!お母さんだとか、恋人だとか、
そういうくくりに出来ないくらい大切なのっ!…ごめん、そこまで傷つくとは思ってなかったんだよ……
大体さあ、筆下ろしの相手がホントにお母さんだったら、笑えないじゃないか」
「え………?」
最後の言葉にグレミオは思わず呆気にとられた。
「あの…やっぱり、…初めて……だったんですか…?」
呆けたまま尋ねると、セフェリスは拗ねるように口を尖らせた。その子供っぽい仕草が初々しいと言えば、初々しい。
「……悪い?とっくに気づいてると思ったよ」
「…にしては、随分要領を得ていましたけど」
「テッドに色々教えてもらったから」
しゃあしゃあと言い切るセフェリスに、グレミオはただ無言で苦笑するしかなかった。
「……。(何をどうやって教えてもらったかなんて、怖くて訊けない…)」
「それより…その紋章って、外さなければずっと女のままなのかな?」
グレミオの額にある紋章に触れながら、セフェリスは素朴な疑問を投げかける。
「おそらく、そうじゃないでしょうか。ジーンさんも恒久的だと言ってましたから」
「じゃあ、グレミオ……」
セフェリスはにっこりと、気味が悪いほどにーーっこりと笑いながら、
まるで何かをおねだりするようにグレミオに告白した。その発言にグレミオの思考はしばし停止することになる。
「結婚しよ?」
「………は?」
「トラン共和国じゃ、同性同士の婚姻は許可されてないじゃない?でもおまえが女なら全然問題ないよね。
それで子供を何人か作れば、いつかまたぼくたちが旅に出なきゃいけなくなっても、
マクドール家が絶えることもなくなるだろうし。ね、だから…結婚しよ?」
そんなこと、グレミオは考えたこともなかった。だから唐突に言われてもどう反応していいのかわからない、
けれどだんだん顔が火照ってくるのをつぶさに感じる。
「け…っこん?私と、ぼっちゃんが……?」
「結婚したら、『グレミオ・マクドール』だね。…うん、結構合ってると思うよ」
セフェリスは嬉しそうに語っているが、グレミオはそれどころではなかった。いつの間にか耳まで真っ赤になってしまって、
照れ隠しのようにセフェリスに向けてまくしたてた。
「わ、私がマクドール家に…!?それに、け…結婚だなんて、そんな畏れ多いこと……!
いいですかぼっちゃん、結婚というのはそう簡単に決めていいものではないんですよ?
そもそもマクドール将軍家というのは古くから由緒のある……」
「いいのいいの。じゃあグレミオ、早速今から子供作ろっ♪」
聞く耳持たないセフェリスは、グレミオが纏っていたシーツを手際よく引き剥がすと一気に襲い掛かってきた。
そしてグレミオの悲痛な喚き声が部屋に響き渡る。
「人の話を聞いてください〜〜〜〜っ!!」
セフェリスたちのいる部屋からドア一枚隔てた廊下、そこにいるのはうら若い一人の女性。
彼女は小さな手帳のようなノートに何やらせわしなく文字を綴っている。
(セフェリスさまとグレミオさん、やっぱり両想いだったのね……!しかも女体化だなんて、
なんてオイシイの…っ!このネタは、きっとウケるはずよ!)
ずっと部屋の音と会話を盗み聞きしていた女性、その名はカスミ。彼女は興奮冷めやらぬ表情でノートにネタを書き殴っている。
そう、確かに彼女はセフェリスに密かな思いを寄せていた。…少々、歪んだ形ではあるが。
やがて、部屋の中からどったんばったんと騒々しい音に加えて、「パイ×リしてーv」だの「顔×騎乗やってーv」だの、
卑猥な(というか下品な)少年の声と「どこでそんな言葉を覚えてきたんですかぁー!」と嘆く女性の声がカスミの耳に届いた。
この城は意外としっかりした防音効果がある為、部屋の中の音を余さず聞き取るということは、
熟練された忍だからこそ出来る芸当だ。
(どうやら第二ラウンド開始のようね…!これは聞き逃すわけにはいかないわっ!)
カスミは馴染みの忍道具(?)を手に取ると、それをドアにあてがい耳を寄せようとして……
いつの間にかこちらに近づいてきた人間の気配に気づき、慌てて立ち上がった。
「さ、サスケ……!」
部屋の中に気をとられて、気配を察するのが遅れてしまった。カスミはその身を隠す暇すら持てず、
後輩である忍の少年を気まずそうに見やった。
「あれ、カスミさん……何してるんです?…コップなんか持って」
「いえ、何でもないのよ」
やっぱり盗み聞きは天井裏の方がよかったかしら、とカスミは後悔しながら冷や汗を垂らす。
まだ忍見習いのサスケには部屋から漏れる音を聞き取ることは出来ない。それが唯一の救いではあった。
「そのノートは?…『ネタ帳』?共和国に依頼された諜報活動か何かですか?」
無邪気に尋ねてくる少年に、カスミは少々うわずった声で答えた。心の中でほっと胸を撫で下ろしながら。
「…ええ、そうよ。よく分かったわね……」
……そしてここに、カスミに勝るとも劣らない女性が一人。
「あの沈香、催淫効果はそれなりだけど…思考力低下の効き目の持続性がイマイチなのが欠点ね……
まだまだ研究の余地があるわ……」
紋章師ジーンは自分の部屋でテーブルに向かいながら、扇情的な風情で吐息つく。
彼女の視線の先あるのは、テーブルにしつらえられたひとつの水晶球。
そこにはセフェリスたちのいる部屋の中の映像が鮮明に映し出されていた。
水晶球のなかの二人は我を忘れて互いを貪りあっている。それを満足げに眺め、ジーンは微笑みながら独りごちた。
「ふふ……これだから出歯亀はやめられないのよね……」
カスミに負けてられないわ……そう呟く彼女の手にも、しっかりと『ネタ帳』が握られていた……。
−あとがき−
他サイトさまで見たグレミオ女体化小説に触発され、
『グレミオに身も心も乙女になってもらおう!』というコンセプトのもと、
見事に自家発電っぽいお話が出来上がりました。
もともと幻水は自己満足のつもりでいつも書いていましたが、
今回ほど客層が限定されるお話もそう無いでしょうね(笑)。
最後に、『女体グレミオが全裸で襲ってくる』というイメージのきっかけとなった、
某お色気漫画に深く感謝しつつ。
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