覚えてる?あの時のこと。
昔、グレミオのことが好き過ぎて、でも結婚できないことがわかって駄々をこねて泣いて、 グレミオまで泣かせちゃったよね。そのあと一晩だけ、いっしょに寝てくれたよね。 ぼくを抱きしめて、涙をぬぐって、朝まで絶対離れないからって、ずっと髪を撫でていてくれたよね。
ぼくがどれだけ嬉しかったかわかる?


覚えてる?あの時のこと。
戦争が終わって旅に出て、ぼくたちは何の地位もしがらみも無いただのふたりの人間になって、 それはまるで時が過去から未来へ流れるよう定められているようにね、 其れそのものが原始からの理(ことわり)であるようにね、ぼくたちは『ひとつ』になったんだよね。 ぼくたちの想いはずーっと昔からひとつだったのにね、まるで気が狂ったように、いつまでもいつまでも抱き合っていたよね。
ぼくがどれだけ嬉しかったかわかる?


おかえり、グレミオ。
やっと、戻ってきてくれたね。
ぼくが今どれだけ幸せかわかる?


溶け合うほどの近さでおまえの微笑みを感じられること
おまえの心音に耳を澄ましてあの時のぼくがささやいた
おまえを躯の中に感じながらあの時のぼくがささやいた
そして今、この腕の中で穏やかに眠るぼくのグレミオへ



ただこれだけ伝えたいよ







-あとがき-
最後まで読んで頂きありがとうございます。
ある日わたしの脳裏で、
グレミオがぼっちゃんを殺して発狂するさまが鮮明に再生され、
それをどうにかして形にしたかったのです。
酷く難産で、書きあがるまで2年以上の歳月を要しました。
更に掲載に至るまでは色々ありました。
でもこのお話を載せることが出来なかったら、
わたしは幻水部屋を作ることを諦めていたでしょう。
思い入れだけは強いお話です。


-おまけ-
挿入音楽『悲しみのテーマアンサンブル』で、
初音ミクに歌わせた歌詞を一応載せておきます。

私の手から零れ落ちたの いとおしいあの日々の想い出
何故と問うことももう出来ないよ 思い知る孤独の躯抱き
(あなたへと届かぬ叫びを鳥は―――静かに天に焦がれて舞う)
私の右手は呪いをすくって 逢いたいあなたはそこにいるのですか?



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