「どうやら、もう少しで村に着きそうだね」 「ええ……」 バナーの峠道もそろそろ終わりが見えてきたようだ、なだらかな下り坂を歩きながらセフェリスが言う。 しかしグレミオの応えはどこか上の空で、心ここに在らずといった風情だった。 セフェリスは心配そうに後ろを歩く青年に声をかけた。 「グレミオ……レックナートさまに言われたこと、考えてるの?」 「…………」 グレミオからの返答は無かったが、あるいはそれこそが返答だった。 レックナートの言葉はグレミオとセフェリスに衝撃と動揺を与えた。セフェリスですらショックを受けたのだ、 グレミオの心情は到底穏やかとは言えないだろう。 「今はあまり考え過ぎない方がいいと思うよ……グレミオの運命がどうであろうと、 その所為でぼくたちの関係が急に変化してしまうわけじゃないから……」 「……そう…ですね」 グレミオは顔を伏せ、いくら進んでも代わり映えのしない腐葉土の道を見つめて歩き続けている。 しかしやがてセフェリスの背中に視線を移すと、どこか言いづらそうに、ほんの少しの失笑も混じえて言葉を滑らせた。 「でも、ぼっちゃん……私は、レックナートさまにそれを告げられたとき…… 確かに感じたんです、歪んだ情動を、…感じたんです。だって、これで私は」 しかしその先は言えなかった。声を遮るように、突然爆音に似た大音量がふたりの耳をつんざいたのだ。 腹の奥底に響き渡るような激しい雷鳴が轟く。見上げればいつの間にか空一杯に暗雲が垂れ込めており、 ほどなくしてポツポツと大粒の水滴が地を濡らし始めた。 「これは……まずいかもしれませんね」 「走るぞ、グレミオ!」 バナーの村まであと僅か。満足に雨宿りも出来ない森のなかを彷徨うよりは、急いで村に向かった方が良いと判断して走り出した。 だが俄雨は想像以上に激しく、瞬く間に滝のような土砂降りとなった。 まるで川の中に潜ったように視界は曇り、道はぬかるんで思うように走れない。 バナーの村の宿屋に着く頃にはふたりとも全身濡れねずみになっていた。 予想以上に雨は冷たく、気温も急激に下がってしまったようだ。セフェリスは寒さで上手く動かない表情筋を歪めて苦笑する。 「まったく……思わぬ洗礼だったね。この旅、前途多難かも」 「これからは急な雨の対策も考えないといけませんね。ともあれ宿屋には着けましたし、早くお湯を使わせてもらいましょう」 宿屋のカウンターに向かうと、赤毛の少女が驚いた様子で奥の方からパタパタと出迎えて来た。 「まあ…!この雨のなかを峠から来られたのですか?お寒いでしょう、すぐ着替えを用意します。 浴室にお湯も沸いていますから、どうぞ暖かくしてゆっくり休まれてください」 少女によってセフェリスたちは宿屋の離れにある部屋に案内され、着替えの夜着と多めのタオルを与えられた。 グレミオがそのタオルでセフェリスの顔を拭い、青ざめた頬に触れながら心配そうな声を出す。 「…こんなに冷えてしまって……ぼっちゃん、早くお着替えを」 「うん、わかってる」 雨に凍え、肌着までぐっしょりと濡れそぼって酷い不快感だった。 身体に張り付いた着衣をグレミオの手も借りてどうにか全部脱ぎ去ると、 グレミオは大きなバスタオルでセフェリスを包むように濡れた髪と身体を拭いていく。 セフェリスにはその手がやけに冷たく感じられて、ふっとグレミオの顔を見た。 いつもは血が透きとおるような風合いをしている彼の頬や唇が、今は完全に色を失っている。 当然だ、グレミオはまだ冷たい雨でずぶ濡れになった重い服を着たままなのだから。 思わずグレミオの手首をがっしりと掴んでいた。 「何してるんだ…!グレミオだって冷えてるじゃないか!」 「…え……っ?」 セフェリスは半ば怒ったような声をあげて、強引にグレミオの服を剥ぎ取っていく。 髪を結わえていた紐をぐいっと掴んで解くと数本ばかり金色のきらめきが抜けて腕に纏わりついた。 手つきが荒くなってしまうのは、苛立たしかったからだ。憎らしかったのだ、 セフェリスにのめり込むあまりに自分を省みないグレミオが。 これで風邪でもひかれたりしたら、一番傷つくのはセフェリス自身なのだということを彼は知らないはずが無いのに。 「……、…っ!」 脱がせていくうちにあらわとなったグレミオの生白い肌。その両胸にある薄紅色をした飾りが目に入ったとき、 セフェリスは突然激しい動悸を覚えた。かあっと全身が熱くなって、一瞬寒さを忘れてしまう。 …いつ以来だろう?グレミオの裸の姿を見たのは。小さな頃は毎日のように見ていたし、 それを何とも思っていなかった。けれどもう自分たちは、昔のままではいられない…… セフェリスの頭の中はぐちゃぐちゃで、手だけが勝手に動いている感覚だった。自分と同じように、 下着一枚残すことなく総てを取り去った。 「ぼっちゃん、身体は自分で拭けますから…」 「いいからじっとしてて!」 グレミオの言葉なんておかまいなしに、 まるで動揺と混乱をひた隠すようにセフェリスはタオルでグレミオの身体をがしがしと乱暴に拭った。 力を入れすぎて赤みを帯びるグレミオの素肌、それでも触れるとまだとても冷たくて…… 身体が小刻みに震えてくるのをセフェリスは感じた。グレミオも微かに震えているのが判る。 今そう気づいただけで、もしかしたらずっと震え続けていたのかもしれないが。 震えが止まらないのは、冷たい雨に体温が奪われているから?じゃあ、早くあの少女が用意してくれた着替えに袖を通さないと。 なのになぜ着替えに手を伸ばさない?なぜ、グレミオの裸体から視線を外せない? ああ、寒い…寒い寒い寒い……このままでは、凍えてしまう! ……寒いのは、身体だけ…? 「ぼ……っちゃん…?」 グレミオは目を見開いた。セフェリスが、抱きついてきたのだ。グレミオの背に腕を回し、互いの身体をしっかりと密着させた。 グレミオが咄嗟に身をよじって離れようとする、しかしセフェリスはそれを許さず、強い腕の力で彼を放さなかった。 「冷えたのを温めるには、人肌が一番良いって昔教わった」 「…はい…私も知っています……ですが」 彼らが抱き締めあうことは過去に何度もあった。しかし今回はこれまでの抱擁と明らかに違う、 ふたりとも何も着ていない、何も遮るものがない。 セフェリスの吐息が胸にかかって、ぞく、と末恐ろしい感覚がグレミオの背筋を這い上がった。 「……やめてください…ぼっちゃん」 私はそんなに強くない。…グレミオは、胸中でそう唱えた。心臓の音がこれ以上無いほど近くに感じられる。 そして嫌でも思い知る、互いの心音の間隔が、熱を帯びゆく身体と共にどんどん早くなっていくのを。 グレミオは恍惚とした恐怖を覚えた。昂ぶりつつある心を隠せない。こんなに近くては、嘘もつけない。 「……早く替えの服を着て、浴室に行きましょう……」 「沐浴なんて、後でいい……」 腰に直接響いてくる声をセフェリスは吐き出して、ゆっくりと顔を上げた。否応無しに視線が絡みつく。 見つめ合う、ぶつかり合う、吸い込まれ、酔いしれて、逸らせない、止まらない、狂気めく二対の眼差しで。 「ぼっちゃん……何を考えておいでですか…?」 「…おまえと、同じことを」 皮膚を破り、肉を裂き、心臓を掴まれて、暴かれる…… 「……あなたが、欲しい」 それはまるで熱に浮かされたような一言だった。それはグレミオが最後の良心を脱ぎ捨てた瞬間だった。 同じ言葉がふたりの口から同時に零れ落ちる。 十数年前に初めて出会ったときからずっと定められていたように錯覚してしまう、まさにこの刹那の為だけに存在する一言を。 『もう待てない』 グレミオはセフェリスの頬に手を添えて、その唇に親指を乗せ、つう、と軽くなぞるように滑らせて… 指先から伝わるみずみずしい感触に肌が粟立つ。翠色の瞳に情欲の炎が灯ったのを確かに認め、 セフェリスは歓喜に打ち震えながらうっとりと囁いた。 「待ち焦がれすぎて……おかしくなる……」 その言葉ごと掬い取るように噛み付いて、深く口づける。決戦前夜にセフェリスの部屋で交わした、 優しくて温かいキスとはまるで激烈さが違った。嵐が襲って来たようだった。 砂漠の中でやっとオアシスを見つけた遭難者のごとく、飢える衝動のままにふたりは貪り合った。 歯茎を舌先でくすぐって上顎を舐め上げる。こわばった小さな舌を誘うように突くとセフェリスは拙いながらも応えてきて、 グレミオはそのままきつく吸い上げ一層深く絡ませた。 「…んっ……んぅう……んっっ…!」 流し込まれたグレミオの唾液を自らのものと混ぜて音を立て飲み下す、 飲み切れなかったものが口腔から溢れて喉を伝っていく。慣れないセフェリスは満足に呼吸さえままならない。 容赦なく舌が絡み、追い上げられ、一瞬たりとも逃れられない。息もつかせない苛烈な口づけ…… ようやく解放された頃にはセフェリスは放心状態に陥ってしまい、もう自力では立つことも出来なかった。 「はあっ……は……あぁ……」 身体を預け荒く呼吸を繰り返すセフェリスをグレミオは抱き上げて、傍にあった寝台にそっと横たえた。 せわしなく息を吐くセフェリスの唇は見事に色づき、つい先ほどの青みがかった血色の悪さが嘘のようだ。 セフェリスの脚を割り開いて覆いかぶさったグレミオは、紅牡丹の蕾のように鮮やかなその場所にもう一度軽くキスをして、 そのまま首筋に唇を落とした。 「…ん……」 軽い痛みのような、むず痒いような感覚に思わず声が出る。グレミオが首筋をきつく吸い上げたのだ。 そこには花びらにも似た所有痕が浮かび上がり、その綺麗な色合いにグレミオは淡く笑みを浮べた。 「あ………」 首から胸元にかけて何箇所も印を刻みながら、いつの間にか硬くなっていた胸の紅点を指先で押し潰し、 軽く引っかいて、挟み込んでいじりまわす。最初はくすぐったいだけだったが、 優しく弄ばれるうちにゾクゾクとした感覚がセフェリスの身を覆い始めた。 「や…っ……やぁ……」 徐々に感じてきたのを見計らい、散々と嬲って赤くなったそれをゆっくりと口に含んだ。 湿った感触に包まれて、快感と羞恥心が相乗効果を引き起こしながら同時に襲い掛かってくる。 「あぁっ…!……あ、あ…っ……」 胸の果実を執拗に舌で転がしながら、手のひらを胸から脇腹へ、膝の頭から太腿の内側へと淫猥に滑らせていく。 セフェリスが反応を示す箇所は、殊更念入りに撫で回して舌を這わせる。 快楽の源をひとつ、またひとつと開拓されるごとに少年の身体は大きく揺れ、瞳を潤ませては髪を振り乱す。 淫らなあえぎ声が溢れ出て止まらない。過ぎる快感は水に溺れる恐怖に似ていた。 脅えながらグレミオに訴える。すがって来るセフェリスにグレミオは微笑みで答えた。 「やだ…っ、ぼく…変……おかしいよ……っああ…!」 「おかしくありませんよ……もっと声を聴かせてください……」 この部屋は宿屋の離れに位置している、多少大きな声をあげたところで気づかれないだろう。 ふたりにとっては都合の良い状況だった。もっとも、セフェリスにはもうそんなことを考える余裕も残っていないようだが。 敏感な脇腹を強く吸われて全身がわななく。花弁の痕がまたひとつ増えた、 もう数え切れないほど花びらは身体中のそこかしこに散っている。 それでも満足しないとばかりに、足の付け根の辺りに、もうひとつ。 「ふぁ…は…ん…っ!……あ…あぁっ…!」 性交の経験など無く性感の未発達なセフェリスが、決定的な場所に刺激を与えられないままここまで乱れてしまうはずがあろうか、 純粋培養のセフェリスは知る由も無かったが、グレミオの手つき、指先の動き、舌の蠢き、 総てが熟達されていて明らかに常人のそれではなかった。技巧的だなんて生易しいものじゃない、 理性を頭から喰らい尽くされるような彼の手管は悪魔的ですらあった。 その悪魔を呼び覚ましてしまったセフェリスは、 さっきまで冷たい雨に凍えていたのが信じられないくらい内から湧き上がり続ける熱量に苛まれて、辛そうに眉根を寄せている。 「そろそろ……イかせてあげましょうか……」 行き場の無い灼熱に身悶えるセフェリスを眺め、グレミオは少年の中心部に視線を落とした。 そこは一度たりとも触れられていないにもかかわらず、もう完全に勃ち上がって先走りの雫を誘うように滴らせている。 グレミオはそこに顔を寄せ、痛いほど張り詰めた肉茎の先端、愛液を掬うように舌先でそっと舐め上げた。 「はっ…ああ!」 それだけの刺激でセフェリスは高い声をあげて身をよじらせる。予想通りの反応にグレミオが満足げに微笑むと、 軽く舌なめずりをして綺麗に熟れたそれをぱっくりと口に含んだ。 「や…あああぁーー!」 奥までくわえ込み、数回吸い上げただけでセフェリスは背を仰け反らせあっけなく果てた。 とろりとした体液が口腔内に打ち付けられる。飲み干したセフェリスの精は、不思議と甘い香りがした。 「あ……あ…っ」 「…とてもおいしかったですよ、ぼっちゃん」 余韻でびくびくと震えているセフェリスへ、グレミオが口端を拭いながら囁く。 「の、飲んだ…の……!?」 グレミオの言葉の意味する所を理解すると、目を見開いて耳まで真っ赤に染めてしまった。 しかし次の瞬間、セフェリスはそれ以上の羞恥を味わうことになる。 太腿に手を添えられ、いっそう深く脚を広げられたと思ったら、信じられない箇所に湿った刺激を感じた。 グレミオがセフェリスの奥まった蕾に舌を滑らせている。 「やっ、やぁ…!ぐれ…っ…お願い、やめて……!」 セフェリスは恥じらいに耐え切れず、グレミオの頭を掴んで力ずくで引き剥がそうとした、 しかしそれをたしなめるようにグレミオが肉棒を握りこんだ。 ひっ、と声を詰まらせてセフェリスの動きが一瞬止まる、その隙にグレミオは手のひらの中のものを妖しくしごき上げ、 同時にぴちゃぴちゃと音を立てながら固い入り口をほぐしていった。 「ぁんっ…だめぇ……おかしく…なっちゃう……!」 巧みな手淫でセフェリス自身はみるみるうちに硬くなり、涙を滴らせてグレミオの手指を濡らしだす。 後ろの蕾もいつしかほころんで、中の緋色をちらちらと垣間見せていた。 「…はぁん…あっ…!……あぁぁ…っ!」 尖らせた舌が内部に侵入してくる。粘膜を直接刺激されると甘ったるい感覚はますます激しくセフェリスの背筋を駆け上がり、 前からの快感も相まって呼吸が止まるほどの愉悦の波に襲われた。 溺れてしまわぬよう、両手で掴んでいたグレミオの頭を自らに押し付けるようにしっかりと抱き締める。 蕾が充分柔らかくなったのを確認したグレミオは舌を離し、セフェリスが前から溢れさせた蜜を絡ませた人差し指を、 ゆっくりと挿入させた。すると異物感に萎縮するようにセフェリスが身を強張らせる。 その反応と己の指先の感触にグレミオは逡巡し、一旦指を抜くとぼうっとした様子のセフェリスに微笑みかけ、優しく話しかけた。 「初めてですから…やっぱり薬を塗った方が良いようです。ぼっちゃん、少しだけ待ってくださいね」 「え……?」 グレミオはベッドを降り、荷物の中から手際よく特効薬を取り出して、すぐにまた同じ位置に戻ってきた。 容器の蓋を開けて中の軟膏を取り、何回か入り口の辺りに塗りつける動作を繰り返す。 そして指にもたっぷりと薬を纏わせて、もう一度中に差し込んで慎重に指を進めていく。 今度は格段に滑りが良くなっていて、まるで自ら食むようにずぶずぶと指を飲み込んでいるようにも見えた。 「あ…あぁ……」 無意識のうちにセフェリスは声を漏らす。自分の体内で細長い指が蠢いている、馴染み難い感触だ。 しかし決して不快なわけではなく、僅かな痛みもほとんど気にならないほど心地良いものだった。 次第にセフェリスの顔がとろんと酩酊しているような表情になると、グレミオは中指も合わせて挿入させた。 「…ココ、ですね……」 「ひっ…ああぁっ…!」 セフェリスの内壁、ほんの少し硬くなっている所をグレミオは見つけた。 くっ、と指を折り曲げて刺激するとひときわ高く甘い声が響いた。 発見した急所を器用な指先で優しく押したり挟み込んだり、擦り上げて愛撫し続けると少年の身体はがくがくと痙攣し、 快楽に侵された瞳から涙をひとしずく零した。 過剰に分泌された唾液が飲み込みきれずに溢れ、口角から喉へと伝っているさまは酷く淫靡だ。 指を更に増やされる頃にはセフェリスの分身は限界近くまで張り詰め、 ほのかに震えながらぽたりぽたりと絶え間なく蜜を滴らせていた。 「あぁ…!あんっ……もぉ…だ…めぇ…っ!」 三本の指で思うさま内部を蹂躙され、脚を突っ張らせてよがり狂う。気がつけば無意識に腰を揺らし始めていた。 もうセフェリスにはひとかけらの羞恥心も残っていない、おそらく限界が近いのだろう。 欲望のまま腰を動かし舞い踊り続けるセフェリスをグレミオは恍惚と見つめ、愛しげに囁いた。 「ねえ…ぼっちゃん……」 「ひゃ…っんぅ……!」 執拗な攻め立てにセフェリスが達しようとした直前、散々ほぐされた所からグレミオは一気に指を引き抜いた。 その刺激が寒気のようにセフェリスを襲い、思わずあられもない声が出る。 あと少しでイけたのに、とセフェリスは恨めしげにグレミオを睨んだが、その瞬間思わず息を呑んだ。 グレミオはセフェリスの先端から垂れる先走りを指先で掬い、見せ付けるように赤い舌でねっとりとそれを舐めとった。 その仕草はあまりに淫らで、凶悪なほど貪婪で、扇情的だの妖艶だのという陳腐な言葉では形容できず、 この瞬間彼に欲情しない者がいたらおそらくそれは人ではない。 腰が抜けてしまったように動けないでいるセフェリスの手をグレミオは取り、自らのモノに導いて手のひらにそっと握らせた。 そして艶やかに微笑みながら問いかける。 「…もう一度、私の口でイかせて欲しいですか?それとも…このまま私のを挿れて欲しいですか……?」 「……っ…!」 その低音の囁き声は毒のようにセフェリスを蝕む。手に握らされたそれはまるで地底のマグマのように熱く脈打っていて、 その熱は理性という理性をことごとく破壊して本能のみの獣に堕落させるものなのだと、セフェリスは確信した。 指はもう抜かれたのに、まだ何かがそこに留まっているような、疼いてたまらない感じがする。 物欲しげにひくついているのが判る。満たされたい。もっと満たされたい……それは飢餓によく似ていた。 施しを請いすがりつく孤児のような瞳でグレミオを見上げ、消え入りそうな声で求めた。 「…い…れて……」 なんて残酷な男だろう、ギリギリまでセフェリスを導いて追い詰めて、 最後の最後にセフェリス自身の言葉で求めさせるとは。グレミオの思うままに染まっていく愛しい人、 その唇にごく軽めのキスを落とし、満足げに笑った。 「よく言えましたね、ぼっちゃん。ご褒美に、死んだ方が遥かにマシだと思えるほどの天国を魅せてさしあげましょう……」 「…あ………」 その声色がセフェリスの疼きをますます酷くさせる、きっと今なら、入れただけで昇天してしまう気がする…… グレミオは少年の両腕を自分の背に回させると、自らの切っ先をほころんだ蕾に当てがい、ぐっと力を込めて押し進めた。 「いッ…!あ、あぁぁあ!」 既にグレミオの指と言葉で容赦なく高められていたセフェリスは、 まだろくに入ってもいないのに圧倒的な質量が内壁を擦る刺激に耐えられず、ぎゅっと目を瞑って二度目の絶頂を迎えた。 セフェリスの入り口はグレミオのちょうど敏感な先端部分を絞るようにきつく締め付けたが、その程度は彼の想定内だった。 どうにか堪え切ると、そのまま一気に突き入れる。 イった後でセフェリスの身体はすっかり力が抜けており、たやすく根元まで受け入れることが出来た。 「………っく…」 しばらくグレミオは動かなかった。いや、動けなかった。自身に纏い付き、包み込み、絡んでくる粘膜。 それがセフェリスのものだと思うだけで、嘘みたいに身体中に快感が染み渡っていく。 セフェリスの体内はあまりにも居心地が良すぎた。この気持ちよさは、羊水に漂う胎児の記憶そのものなのではないかと、 グレミオは根拠も無く思った。 「…ぼっちゃん……わかりますか?あなたのなかに、私がいる……」 グレミオは乱れがちな呼吸を抑えて目を閉じたままのセフェリスに囁きかけた。すると白い瞼が震え、 琥珀色の瞳がゆっくりとその姿を覗かせる。荒い息を吐きながら、セフェリスはあどけない微笑みを浮べた。 「うん、わかる……ぼくたち…ひとつになってる……」 瞳は潤み、頬は薔薇色に染まり、その微笑は天使を思わせた……ぞくっ、とグレミオは戦慄する。 一瞬この少年の恐ろしさを垣間見た気がした。…もしかしたら、 (……天国に連れて行かれるのは……私……?) 無垢な天使は何ひとつたがうことなくまっすぐに道を指し示してくれる。 その導きに心を同調させれば伝えたい言葉は自然と口から滑り落ちていた。 かわし合うは言葉ではなく言霊。響きあい共鳴して魂を奮わせ、耐え切れないほどの思慕が溢れてきて止まらなくなる。 ああ、愛しくてたまらない。この灼熱をもっと分かち合いたい。もっと深くまで交わって燃え尽きてしまいたい…… 「あっ……あぁ……!」 グレミオがゆるゆると腰を揺らし始めると、セフェリスは背をしならせて切なげな声をあげた。 その喘ぎは幾ばくかの甘さも含んでいて、決して苦しみだけを与えているのではないのだと教えてくれる。 本当は、多少手加減して抱いてやるつもりだった、セフェリスはこれが初めてなのだから。 それなのに、目の前のセフェリスの痴態が、赤みを帯びた目元が、汗ばんだ胸が、艶めかしい喉が、 己に絡みついて愛撫する内壁が、何もかもが信じられないような快楽となってグレミオの最後の理性に鋭い牙を立てる。 もうこれは愛の営みなんかじゃない、戦いだった。 「あ、熱…いっ…!ああ…ああぁっ!」 熱い、と激しく叫んだ瞬間、セフェリスの頭は真っ白になった。まともな言葉らしき言葉を発することが出来たのは、 おそらくこのときが最後だった。グレミオが激しく突き上げてきたのだ。 圧倒的な熱量でもってセフェリスを蹂躙していく、 まるでグレミオによって身体のなかに灯された小さな火が、紅蓮の炎となって全身から噴きあがるようだった。 「やああぁんっ…ああぁ…!あっ…ああぁああ!」 激浪のような攻め方に、悲鳴じみた嬌声が絶え間なく響き渡る。未成熟の身体は大きく痙攣し、 時折びくんびくんと勢いよく跳ね上がった。グレミオの背に回した腕を、抱き締めるようにセフェリスが力を込める。 知らずして爪を立ててしまい、激しい律動とともに、ぎぎっと鈍い痛みを伴いながら背中の皮膚は裂かれ血を滴らせた。 セフェリスが無意識のうちにグレミオの腰に脚を絡ませ、こちらへぐっと引き寄せる。 結合が一層深くなって、強すぎる快感に悶え、獣のように呻いてグレミオの肩に思いっ切り噛み付いた。 それと同時に、腰の骨が砕けそうなほど絡めた両脚できつく締め上げられる。 さすがのグレミオも痛みで僅かに眉根を寄せたが、ここまでセフェリスを乱れさせたという悦びの方が遥かに勝っていた。 ぞくぞくと腰から背筋へと突き抜けていく快楽に苦痛すら忘れて貪り続ける。 グレミオは戯れに訊いた、返答など来ないことを承知の上で。 「ぼっちゃん……そんなに気持ちイイ……?」 「ぐ、うぅっ…っはぁ、ア、あああぁぁっ…!!」 そしてセフェリスは問いかけに全身で答える。体内で鋭い快感が何度も爆発を起こし、 その身を激しく乱れさせながら勢いよく白濁を放った。達する瞬間に背を仰け反らせ、 きつく歯を立てていた肩からようやく口を離す。そこには赤い歯型が痛々しく残り、僅かに血を滲ませていた。 「あ、あっ!あ…!ヤ…ああぁんんっ…はあぁぁあっっ!!」 一度到達してもグレミオの動きは止まらなかった。容赦なく楔を突き立てられ、何度も高みに連れて行かれる。 萎える暇など塵とも与えられず、それどころかセフェリスの中心は空っぽになるまで吐き続けることを望んでいる。 数え切れないほど昇天させられ、もう何も考えられずただ与えられた悦楽を貪ることしか出来ない。 頭の中でバチバチと火花が踊り狂い、視界は白く染まり、涙が絶え間なく溢れてくる。 既に自分がどんな嬌声を口走っているのか皆目わからない。 次第に遠のきつつある意識の中で、何度かグレミオの迸りが体内に染み渡るのを感じた。 「………は……ぁ、…あ……」 「もう…辛い…ですか?…ぼっちゃん……」 三度目にセフェリスの中へ自らの精を注いだとき、グレミオはようやくセフェリスの身体が酷く強張っていることに気づいた。 セフェリスは息も絶え絶えで、表情はうつろ、意識も朦朧としている。これ以上したら、壊してしまう。 出来る限り優しくしようと思っていたのに、この有様とは。いや、この程度で済んでよかった。 グレミオは若干の物足りなさを感じながらも、辛うじて残った理性でゆっくりと自身を抜き出そうとした。しかし。 「やっ……や…ぁ………」 セフェリスが、背に回した腕に、腰へと絡めた脚になけなしの力を込め、 抜こうとするグレミオの動きを押し留める。おそらくは、ほとんど無意識に。セフェリスの声なき声が聞こえた気がした。 “まだ、離れないで……” その瞬間だった。グレミオのなかで、何かが切れたのは。 「……駄目…だ……もう……」 止められない……!! 信じられないほど余裕を失った声が口を衝いて出ていた。その瞳は獲物の喉笛に喰らいつく肉食獣そのもの。 グレミオは強引に後ろから貫く姿勢に変えた。セフェリスを四つんばいにし、尻を高く上げさせ、一気に突き入れる。 それは獣同士が交わるときの体位だった。 「…あっ…ああぁ……」 深い挿入感に陶酔したようにセフェリスがあえかな嬌声を漏らす。 その声に狂わされ、グレミオは激しく腰を使い出した。セフェリスは両手では体重を支えきれずに崩れ落ち、 腰だけを高く突き上げて、容赦無く攻められる衝撃にただ打ち震えた。 「愛してる…愛してる……愛してる……ぼっ、…ちゃ……ェリス……セフェリス…愛してる……っ」 グレミオは滅茶苦茶にセフェリスを犯した。雅やかで小奇麗な睦言なんて出てきやしない。 ただうわごとのように同じ単語を繰り返しながら、容赦なく追い上げて暴力的に打ちつける。そのさまは酷くレイプじみていた。 セフェリスの前も後ろも互いの放ったもので真珠色に塗れ、 動くたびに繋がった所からはぐちゅぐちゅと精液が泡を立てながら溢れてつたい落ちていく。 その感触がグレミオをますます興奮させ、浅く深く、緩く激しく、何度も出し入れを繰り返す。 抜かないままグレミオは更に二度、セフェリスの中へと放った。 「あぁ…、…ぁ……」 もう何度絶頂を迎えたのかわからない、セフェリスのあえぎはすっかりか細くなり、もはやほとんど声になっていない。 悦所を繰り返し突かれても肉茎を擦られても時折僅かに震えるくらいで、達してもさらさらと透明な液が僅かに零れるばかりで、 限界を超えているのは目に見えて明らかだった。 それでもグレミオは行為をやめられなかった。セフェリスの背中に幾つもキスを落とし、 延々と囁きかけながら憑かれたように腰を揺らし続けた。 「……愛してる……セフェリス……愛してる……」 ほとんど反応を示さなくなったセフェリスを揺さぶっている光景はさながらネクロフィリアを思わせた。 既にグレミオも、おそらく正気ではない。唱えているのは確かに愛の言葉のはずなのに。 いや、もしかしたらこれこそが、長きに渡って苦しみ抜いた彼らがたどり着いたひとつの答えなのか…… 「セフェリス……愛してる…愛してる……愛し……て…………」 or 目次に戻る? |