男が別れ際に教えてくれたとおりに森を抜け出たクラウドが、 ヴィンセントと無事再会を果たしたのは夕刻のことだった。 ヴィンセントはシドやシエラと手分けをしてクラウドを探していたようだ。 あちこち駆け回っていたのか、少しだけ息を切らせている。 「クラウド……なのか?」 「ヴィンセント……ずっと、俺のこと探してたの?…俺の、為に……」 再会した二人は互いに戸惑いを隠せずにいた。とりわけヴィンセントの驚きは大きい。 漸く見つけたクラウドは思いのほか元気な様子だったものの、 数歩引いた距離からでもはっきりと判るほどに瞼が腫れてしまっていた。 白目の色も、斜陽の光に照らされている所為かもしれないが、やけに赤く充血して見える。 (まさか、……泣いていたのか) 泣けないはずのクラウドが、どうして……尋ねようにも強い驚嘆の念が邪魔をして、 ヴィンセントは即座に声を出せなかったが、続くクラウドの言動にいよいよ言葉を失った。 「ありがとう。ヴィンセント……俺の傍にいてくれて」 謝意を伝えると共に、クラウドの瞳から、哀しみだけが原因ではない涙が零れ落ちてゆく。 さながら光を取り戻した盲者のような心持ちだった。 こんなにも愚かな自分を、皆、懸命に探し回ってくれた……確かに、自分は独りではなかったのだ。 孤独だと思い込んでも、たとえ孤独を願ったとしても、人の世は様々な形をした絆で溢れている。 本当は、独りぼっちになることの方が困難なのだ。 自分の心がけひとつで、こんなにも世界が違って見えるなんて。 「やっと…周囲を見られるだけの感覚が、戻ってきたんだ。 俺の周りで、こんなにもかけがえの無い人達が俺を想ってくれていたことに、 やっと、気づけたんだ……」 涙を拭い、確かな足取りでクラウドは前進する。 やがてヴィンセントの傍まで来ると、握手を求めて右手を差し出した。 「旅をしよう。あんたと俺と、俺の中にいる大切な人と……皆で、終わりの来ない旅をしよう」 (…檻に閉じ込められていたクラウドの心が、自由を取り戻した……?) 雷に打たれたような衝撃が、ヴィンセントの背筋を駆け抜ける。そして確信した。 行方の知れなかった数時間のうちに、何かがクラウドを変えたのだと。 (嗚呼、その強さがクラウド……私が愛した人なればこそ……) クラウドの憑き物を落としたのは自分の手ではなかったが、構わない。 熱いものが込み上げてくるのをヴィンセントはつぶさに感じつつ、クラウドの手を力強く握り返した。 「クラウドが望むのであれば……私もまた、地獄の果てまで同行しよう」 命の旅は終わらない。越えられない困難で立ち止まっても、 癒せない哀しみでうずくまっても、たとえ人としての生を終えてしまったとしても、 大河のように、血潮のように、命はこの星を巡り、流れ続ける。 「一緒に旅をしよう……ヴィンセント、そして……」 クラウドはじんわりと温もりを帯びる胸に左手をあて、ほんの僅かに頬を緩ませた。 それは一見笑っているのか判らなくて、でも確かに笑っていて、 無表情の受容力で抱え切れなくなった「万感の想い」が溢れ出たようなもの。 いつの日か、もっと自然に笑えるときが訪れるはず。未来が見えないとか、 生きている意味が無いとか、そんなことばかり考えてしまう救いようのない自分だけれど、 それでも、大切な人達が周りにいてくれる。 その人達の愛に報いたいから、和解を果たせるそのときまで、自分は。 「そして、セフィロス。俺は…絶望に負けず、歩み続けるよ……」 -あとがき- およそ5年振りのセフィクラ更新となります。 ひと月ほど前にPixivに載せたものに背景をつけてフォントを少しいじっただけです。 『セフィロスがいないハッピーエンドは可能か』という疑問を抱いて、 8年前に構想したものの、ずっと書きかけで放置していたお話です。 父の闘病と死をきっかけに完成させたくなり、ひとまず形にはなりました。 セフィロスの出番が少な過ぎて萌え要素も少な過ぎて申し訳ないです。 またしばらくセフィクラは年単位で更新停止状態になると思います。 ですが、よほどのことがなければサイト自体は閉めない予定です。 5年以上前のお話を晒すのはとんだ羞恥プレイですけどね…!(苦笑 |