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先のない幸福


クラウドとティファは、大空洞近くのクレーター内、 風の吹き付けない岩陰に身を潜めながら身を寄せあっていた。 決戦前夜。他の仲間たちは待つ人のところへ帰って行った。 ここへ戻ってくるのかわからないけれど、 クラウドは特にそれを不安に思うことはない。 どうしてかはわからないが、どこかに確信が ひっそりと根付いているのかもしれなかった。
疲れてしまったのか、ティファはさきほど眠りに落ち、 クラウドの傍らで横たわっている。クラウドはかぶっていた毛布を ティファの体にかけてやった。
『思いを伝えられるのは、言葉だけじゃないよ』
ティファの言葉が思い出される。ティファの女性らしい気遣いは、心地いいと思う。 実際ティファには数え切れないほど支えられてきた。 ティファがいてくれるから、クラウドは自分が決して孤独ではないと実感できる。 だけど、「憧れの幼なじみ」という関係からどうしても一歩を踏み出せないのは、 たぶん自分の所為だろう。たとえティファに求められたとしても、 きっと答えることができない。そのわけを、 ティファには絶対に悟られてはいけないのだけど。
風の音がする。星の力が集まっているせいか、クレーター内には雪はなく、 クラウドは防寒着を着ていない。それでも夜になると少し空気が冷たくて、 クラウドは思わず自らの身体を抱いた。
(寒い……)
そして求めるのは、なんのぬくもり?……誰のぬくもり? 突然脳裏に浮かんだ影に愕然としたクラウドは首を左右にふって、
無意識に影を求めた自分を追い出そうとした。 それは記憶を取り戻してから断続的に襲ってくる衝動だった。 クラウドは自身に言い聞かせる。こんなこと考えてしまう自分は女々しいと。 そしてこんな時に考えてはいけないのだと。
(寒い、よ……)
だけど、いけないと思うほど、幻影はますます大きくなってしまう。 あのぬくもりを求める気持ちがどうしようもなく胸を締め付ける。
現実ではもう叶わないことを知っていながら。 気を抜くと涙が滲んでしまいそうで、クラウドは静かにうつむいた。
「そしておまえは、ひとりで震えているのか。見放された子猫のように」
突如どこからか声がすると、クラウドの頭上に影が落ち、 ふわりとした温かさに包まれた。気がつくと、黒い影にやわらかく抱きしめられていた。
「……?」
黒い影は確かな実体を持っていた。それは漆黒のロングコートを着た、 さきほどクラウドが思い描いていたひとと寸分違わぬ姿で、 抱擁をうけたクラウドはしばし呆然とした。 今自分を抱いているひとは、これから自分たちが倒しに行く相手。 村を焼いて、隕石を呼んで、多くの人を傷つけた、自分が憎むべき相手。 そして5年前に狂ってしまったあのひと。
あるいはこの人物の気配や声音にわずかにでも悪意が存在したなら クラウドはためらわずに剣をとっただろう、なのに……
「それなのに、あんたはどうして……昔のように抱きしめるんだ」
クラウドはどこか責めるような口調で問うた。懐かしいぬくもりに身体を震わせながら。
「どうして、昔のように穏やかな声なんだ」
今、あのひとの影を追ってはいけないのに。セフィロスを倒すという、 決意が揺らいでしまうから。
「夢だから」
クラウドの耳元でささやいた。クラウドだけに聞こえる、小さな掠れ声で。
「これは夢。つかの間の夢だ。だから、何が起きても不思議ではない」
「夢……?」
「そう、夜が明ければすべて消える夢」
セフィロスの声はどこまでも優しい。寄せては返すさざなみのように、心地よく響く。 違う、こんなセフィロスはありえない。優しかったセフィロスは、5年前に死んでしまった。 だからこれは現実じゃない。セフィロスの言うとおり、……きっとこれは夢だ。
「……夢なのだとしたら、俺はあんたに本当のこと、言ってもいいんだね?」
現実じゃないから、俺はあんたを受け入れていいんだね。 あんたは俺の夢が見せる過去の幻。現実のセフィロスじゃないのだから。
クラウドはためらいがちにセフィロスの背中に腕を伸ばして、抱き返した。 幾筋も流れる銀の房が指先に触れる。クラウドは丁寧に銀糸を梳いた。 それは昔からの閨での癖。
「俺はまだ、セフィロスのことを、……愛しているよ」
とうとう言ってしまった。今まで誰にも話さなかった、クラウドが秘めに秘めた本当のこと。 夢だからこそ言えた本当のこと。セフィロスはクラウドの言葉を噛み締めるように、 その碧の瞳を閉じた。
「俺はセフィロスを……まだ、愛していいのかな」
「ただし、夢の中でだけ」
一旦抱き合った身体を離すと、セフィロスは真っ直ぐクラウドを見つめた。 ライフストリームをそのまますくいとったような、碧の瞳。 夜の闇にぼんやりと浮かび上がる燐光。
その光に吸い込まれるままに、クラウドは顔を寄せていく。 一瞬、唇と唇がふれると、驚いたようにクラウドは顔を引いた。 もう一度、おそるおそる唇を触れ合わせると、また離れて、 3度目に薄く開かれた唇から軽く舌を入れた。相手の舌をつつき、 小さな水音をたてて離れる。
「夢なのに……あったかいね……」
不思議そうに、クラウドはつぶやいた。その表情はどこか夢見心地で。 既に獲物は罠にかかった。より深い夢へ誘うようにセフィロスはささやく。
「今だけは、優しい夢に全てを預けるといい。ただし、忘れるな。
これから起こることはすべて夢だということを」
そう言い放つとセフィロスはむしゃぶりつくようなキスをしてきた。 先ほどまでの優しいものではない。それはほとんど不意打ちに近く、 驚いたクラウドはそれに翻弄されるまま、 唇と唇深く合わせてその中でセフィロスの舌が動く。 離れていた時間を埋め合わせるほどに激しく。 その動きに呼び覚まされるようにだんだんとクラウドは煽られていった。 敏感な口腔の天井を愛撫するセフィロスの舌の裏筋を舐め上げたのを皮切りに、 積極的に舌を絡め始めた。
こうなってしまうともう躊躇なんて捨て去られて、 たがが外れたようにお互い相手の頭を両手でとらえて、熱い吐息の合間、 何度も唇をついばんで、今度は角度を変えて。 上半身下半身おかまいなく身体を擦りつけあう。 セフィロスの長い指がクラウドの髪をすく。すうっと、生え際から。 同時に耳朶を舌が這う。セフィロスの舌。それだけで、どうしようもなく感じる。 身震いを止められない。
「あ……すごい……キスだけで、こんなになっちゃった……」
クラウドは、自分の股間を相手の下半身に擦り付けた。 するとセフィロスも、ぐりっ、と円を描くように押し付けてくる。 セフィロスも既に勃起していて、服越しの感触が余計にクラウドを興奮させた。
「あっ……!」
耳の中に舌を入れられて、クラウドが思わずといった喘ぎ声を上げる。 その存外大きな声に驚いたのか、クラウドがとっさに口元を押さえた。 それに気づいたセフィロスは、何ごとか小声でつぶやき始めた。 それが魔法の詠唱だとクラウドは気づく由もなかったが。
「スリプル」
腕のマテリアが輝きを放ち、魔力が放出される。クラウドに向かってではない。 傍らで眠りに落ちているティファに向かって。これで、朝までは目を覚まさない。 魔力がティファを包み込んだのを確認して、視線をクラウドに戻す。 そしてどこまでも落ちていく誘いの言葉を。
「クラウド、声を殺すな。……夢の中には、誰も入ってこないから」
ハイネックラインの襟元を下にずらして、首筋を吸い上げると、 クラウドが甘い吐息を漏らす。場所をわずかに変えながら痕をつけるように何度か吸うと、 クラウドが垂れた銀髪を引っ張って訴えた。
「セフィロス……も…、服……脱がせて……もう、濡れちゃってる、から……」
クラウドの言葉に思わず直ぐにでも押し倒したくなる衝動に駆られたが、 先ずロングコートを脱ぐと地面に敷いた。 さきほどから瞳が潤んだままのクラウドをコートの上に横たえると、 まるで取っ組み合いのような服の脱がし合いをした、 そして全身をなめずり合い吸いつき合い。 本当に全身を舐め回した。それこそ足の裏から指の間まで。 汚いからよしてとクラウドは言うのだけれど、 言っている本人が何よりびくびくと感じながら相手の足も隅々まで舐めまわしていて 説得力は全く無かった。せっかく敷いたコートが意味を成さないくらいに求めあって。
胸元に顔をうずめて産毛に噛み付くクラウド、懐かしい体臭にこれ以上なく興奮して、 張り詰めている竿にしゃぶりついた。クラウドは昔からフェラが好きだった、 ここを愛しているだけでセフィロス全部を愛している感覚になれるからなのだそう。 今夜のクラウドは過去にないほど積極的だった、きっとそれは夢の中だからだろう。 夢の中だからどこまでも正直になれる、 5年間たわめられた思いをふさぐものは何も無かったから。
夢中で吸い付いてくるクラウドの頭を優しく撫でながら、 セフィロスはちょっとした悪戯を思いつく。 クラウドの腰から尻にかけてのラインをすっとなぞった。形のよい尻を何度も撫でると、 クラウドは腰をかすかに振った。興奮しているせいで、わずかな刺激でも感じるのだろう。
「ん……」
奥まった場所、つつましくそこに存在する小さなつぼみ。 そこをノックするようにつつくと、クラウドが低くうめき声を発した。 だけど抵抗する気配はない。セフィロスは慎重に指を一本、入れた。 傷つけないように、ゆっくりと。そして少しずつほぐしていく。 ようやく根元まで入ったところで指を少し折り曲げると、反射的にクラウドが反応を示した。
「ん、……んぅ……」
「おまえは、前を触られるより、後ろの方が好きだったよな?」
クラウドは咥えながらこくんと頷いた。 どこを、どのくらいの緩急で攻めればクラウドが一番感じるか、 セフィロスの身体がそれを覚えている。ゆっくり抜き差ししながら、 時折前立腺のしこりを刺激して。クラウドがつらそうに眉根を寄せるが、 上の口はまだセフィロスのものを咥えて離さない。 さきほどよりもぎこちない動作ながら、セフィロスを気持ちよくさせようと懸命に愛撫する。
「ん……っん、ん……っ、んん……!」
次第にクラウドの中が濡れてくる。セフィロスは指の本数を増やして、 くちゅくちゅと水音を立てながらそれぞれをばらばらに動かす。 この頃になってくるとクラウドはほぼ無意識に腰を揺らめかせ始める。 与えられる刺激をどうにかして散らせようとするかのように、 ひどく、エロティックに。クラウドが漏らすうめきがもう甘い色だけを帯びてくると、 セフィロスは急に指を引き抜いた。その行為がもたらす寒気のような感覚に、 クラウドがとうとう咥えていた口を離した。
「ぁあっ……」
「もういいぞ、クラウド。……我慢強くなったな」
ねぎらうように髪を撫でると、クラウドは照れくさそうに微笑んだ。
「だって……もう5年も経ってるんだよ」
「……本当に、大きくなったな……クラウド」
感慨深そうにセフィロスがつぶやくと、静かにクラウドを押し倒して、 ゆっくりと覆いかぶさった。クラウドはとっさに瞳を閉じた。 だけどその予兆はやってこない。おそるおそるクラウドが目を開くと、 セフィロスがクラウドの顔をじっと見つめていた。 そのことにクラウドは羞恥を覚えないわけではなかったが、 不思議と目を逸らすことはできなかった。言葉なく、しばし視線を絡め合わせた後、 やがて、セフィロスがゆっくりと語りかけてきた。
「……オレが欲しいか?」
答えの定められた問答。それはひとつの儀式のようで。
「……欲しいよ…」
クラウドは自分から足を折り曲げて身体を開いた。 そしてセフィロスのものを自分のつぼみに導く。
「セフィロスが欲しい」
セフィロスで満たして。突き入れて。かき回して。掘り尽くして。 一滴残らず入れて。空っぽになってもやめないで。どうか、粉々になるまで!
「く……あ、っ……」
入って、来た。5年ぶりで狭い場所、息を詰まらせて、ゆっくり結合する。 クラウドの肉襞は侵入者を拒むような動きを見せるが、かまわず前進させる。 根元まで入りきって動きを止めてから、 ようやく思い出したかのようにクラウドが細く息を吐いた。繋がった箇所がひどく熱い。 そのままどろどろに溶けてしまいそうな。
「……食いちぎられそうだな」
セフィロスが呻くような声でつぶやいた。多少の苦痛はあるらしい。 だけど相手はこの何倍もの苦痛を伴っていることが頭から離れなくて、 セフィロスは慣れるまでしばらく動かなかった。じっと、収縮運動をする内壁を味わう。 それだけで、じわじわとゆるい性感が這い上がってくるのを感じる。
「セフィ……おね、が…い……」
その寸止めのような感覚に先に根を上げたのはクラウドだった。
「う…ご、い、て……」
「クラウド……」
セフィロスも限界が来ていたようだった。わずかに腰を引いてから、 突き上げる動きを何度か繰り返すと、ふたりの口から切ないような声が漏れた。
「は……っあ、あ……あ…っ」
クラウドが苦痛とも快感ともとれる声を発する。 セフィロスはクラウドの声を頼りに性感帯を探るように腰を進めていく。
「ああぁ……そこ……そこぉ…」
「……ここ、か?」
クラウドが反応した弱い箇所をえぐって、 そこに先端を擦りつけるように小刻みに腰を揺らす。
「は、…あっ……セフィ…ああっ…あぁ……セフィ、セフィ……!」
吐息が激しくなっていく。クラウドの身体が徐々にこわばり、 セフィロスの腰に絡めた足が痙攣を始める。 足の強い締め付けに腰が砕かれる錯覚を覚えながら、奥まで突き入れた。
「はあ、はぁっ…ああ、ああっ、あっ、あ、あ!」
「……っ、く……」
甲高い声を上げて、クラウドは白濁した液体を吐きだした。 同時に、急に収縮した体内でセフィロスのものも弾けた。 吐精感に腰を震わせて、ゆっくり結合を解くと、荒い息を整えながらクラウドがつぶやいた。
「早い、ね……」
「……すまない」
謝るセフィロスに、クラウドがくすくすと笑う。
「どうして、謝るの?」
「だが物足りないのではないか?」
「…………うん」
クラウドが照れくさそうに頷くと、セフィロスは足を投げ出して座り、誘いをかけた。
「自分でできるか?」
「…恥ずかしい……」
クラウドがためらっていると、セフィロスが更に煽ってみせる。
「欲しいのだろう?ほら、もう立ち上がりかけている」
そう言ってクラウドの力を持ち始めた箇所を舐めまわすように見つめる。 決して自分からは触れずに。
「セフィ……いじわる…」
次第にクラウドは目だけで犯されているような感覚に耐え切れなくなって、 結局、ためらいながらも自分から動いた。セフィロスの首に手をまわし、腰にまたがって、 ゆっくりと腰を落とし始める。
「うぅっ……っん……」
始めこそつらそうな声を上げるが、クラウドの分の体重がかかっていることもあって、 さきほどよりもスムーズに入っていく。
「あ……深ぁ…い……」
全部入って、深い挿入感に陶酔したように感嘆のため息を漏らす。 そして、座ってクラウドを支えているセフィロスに抱きついた。 これ以上なくぴったりと身体が密着して、繋がっていることを除けば、 まるで普通にただ愛し合っているだけのような体位。
「セフィロス、…大好き……」
中に入っているセフィロスをきゅっと締めつけて、恍惚とクラウドが告白した。 どちらともなく顔を寄せてキスをする。ぴちゃぴちゃと舌を絡め合わせて思いを確認しあう。 背筋がどうしようもなくぞくぞくする。 心から来る気持ちよさもあるのだろうとクラウドは思った。
「うごいて、いい……?」
「……好きなだけ」
クラウドが腰を上下に揺らし始める。時折、左右にひねって擦りつけるようにしながら、 あるいは括約筋で締め上げて。
「あ、ん……あっ、……いい…」
「気持ちよくなってきたか?」
答えを返す代わりにクラウドが爪をたてる。その痛みを甘美に感じながら、 セフィロスはクラウドの動きにあわせて腰を突き上げた。
「ひあ、あ……そこ…もっと突いて……」
クラウドが腰を振りながらねだる。しかしセフィロスはそれきり動こうとしない。 クラウドがそれを不思議に思い始めた頃、思い出したように一回だけ突き上げた。
「あぁん……」
「……クラウド、気持ちいいか?」
セフィロスが問いかける。それは意地悪な誘導尋問。
「……いぃ……」
「どこが?どんなふうに?」
「…………」
答えないと動かないつもりらしい。クラウドは上下に腰を動かして必死に煽ろうとするが、 それでもセフィロスは動かない。自分の動きだけでは満足できなくて、 もっと激しい刺激が欲しくて、クラウドはついに音を上げた。
「セフィの…………セフィの、おっきいのが……」
言い出すと止まらなくて、だけど恥ずかしくて、クラウドは顔が紅潮していくのをつぶさに 感じた。
「…おっきいのが、いいところ、こりこり、擦るの、が、いい……ぞくぞくする…」
「……他には?」
「俺の、先が……セフィの、おなかに、こすれるの……」
「ここだな?」
セフィロスがクラウドの亀頭を手のひらで包み込むと、クラウドが身じろいで抵抗した。
「…よくなりすぎちゃう……」
「それのどこが嫌なんだ?」
「セフィと一緒に、いきたいから……俺だけなんて、やだ……」
なるほどな、とセフィロスは納得して手を離した。 そして、クラウドの髪をなでて労いの言葉をかける。
「いい子だ、クラウド」
セフィロスは満足そうに微笑んでいた。その表情があまりにもきれいで、 クラウドは思わず見とれてしまったけれど、あまり長くぼうっとはできなかった。 セフィロスが、クラウドの望みどおり激しく腰を打ちつけ始めた所為。
「そ、んな、いきなり……うあ……っ、あ!あぁっ!」
突如襲い掛かったそのあまりの刺激にクラウドの思考は瞬く間に霧散した。 何度も打ちつけられる度にクラウドは甘ったるい悲鳴をあげて、 激し過ぎて身体がうまく動かないなか、懸命に腰を押しつけた。
「あ……っ!や、あっ、ああん、ああ………なか、甘い…よぉ、甘いぃ……!」
「く……いやらしい、動き、だな」
クラウドが感じるたびにきゅうきゅうとセフィロスを締め付けて、 うごめく肉襞はまるで誘いをかけるよう、 セフィロスの呼吸も少しずつ、せわしなげになっていく。クラウドは、 既に自分のなにがどうなっているのかもわからずに、 セフィロスにしがみついて、ただ開放を焦がれて腰を上下運動させる。
「んぅ…も、…っと、もっとぉ、セフィ…!あぁぁ!」
突き上げられるごとに襲ってくる気の遠くなるような射精感。 クラウドの腰の動きとセフィロスの突き上げる動きがシンクロするとそのたびに奥深くまで 入っては息を詰まらせる。
「やぁ、…痺れ…ちゃ……すごい…イイよぉ……!あぁっ、あんっ、甘ぁいぃっ」
出し入れして性感帯を激しく擦られるときの気持ちよさは、 まるで下半身がとろけるほど甘くて、パンパンに張り詰めた亀頭が ふたりの腹部に擦られる感覚もたまらなくて。また、クラウドの声がひときわ高くなった。 セフィロスの腰に絡めた足が痙攣を始める。もうそろそろ、限界が近い。
「……イって、いいか……?」
セフィロスとクラウドの声がかぶった。
「いくっ……いく……!あ、ひあっ、あっ、また、出ちゃ……!!」
前をびくびくと震わせて、2度目の到達をした。そして後ろがきゅ、きゅ、きゅと 連続で5回くらいきつくセフィロスを締めつけて、セフィロスの低い呻き声とともに、 熱いものが体内に吐き出されるのをクラウドは陶然と感じた。
「あ、あ、あ……」
セフィロスのものが引き抜かれて、その感覚すら気持ちよくてクラウドは反応する。 抜かれたのに、まだ入っているような錯覚を覚えて、身体が勝手に小刻みな震えを繰り返す。 そして余韻に浸る暇もなく、セフィロスがクラウドの桜色に濡れる唇を奪った。 露骨に聞こえる大きな水音をたてて、互いの舌が上になり下になり、 体液を交換するとき含みきれずに口端から漏れて顎をつたった。長いキスに、 頭の奥がしびれるような感覚。息が苦しくなって漸く唇を離すと、間近に互いの顔があった。 荒い息を吐きながら、情欲に塗れた表情。それは、互いにしか決して見せることのない表情。
「……すまない……もう、止まりそうにない」
ぞくりとする、言葉。
「セフィ、ロス」
「止まらない……壊してしまうかもしれない」
「…嬉しい……」
言葉のもたらす快感で背筋を震わせながら、クラウドは答えた。
「お願い…壊し、て……」
クラウドは後ろを向いて、セフィロスに腰を差し出した。
「それは……挑発しているのか?」
すると、クラウドは思わず肩を揺らした。微かに笑っている。
「挑発なんかじゃ、ないよ……これは、俺の気持ち。俺がそうしたいから」
「そうか……敵わないな」
クラウドの浮き上がった背骨にキスを落としてから、 一向に萎える気配のないものを白い液体に塗れたつぼみにあてがう。
「ああっ……」
それだけでぞくりと震えたクラウドにセフィロスは苦笑した。
「これだけで感じていたら、すぐにいってしまうぞ」
「そんな、こと……ぁん」
セフィロスは存外性急に腰を進めてきた。止まらない、 という表現は決して誇張ではなかったのだというように。 それでもクラウドのつぼみはずぶずぶと貪欲に飲み込んでいく。 つぼみはほころび、淫らな艶花となった。
「はぁ、は、セフィの、すごい……また、大きくなってる……」
「クラウド……動く、ぞ」
突き刺して、奥をかき回すように攻める。亀頭がひっかかるまでぎりぎりに抜いて、 突き立てる。その衝撃にクラウドは必死に耐えている。片手が宙をさまよいながら、 喘ぎの合間に訴える。
「ああっ、うあ、あぁ!セフィ、……ねえ、はいってる?セフィロス、ねえ、入ってる?」
「…ああ……ここに、いる……おまえのなか、に、いる……」
「だって……見えないよ……あ、ああっ、セフィが、見えない……!」
「ならば、もっと深く、オレを感じてくれ‥…」
腰をぐっと抱いて挿入をより深いものにする。クラウドが悲痛な叫びを上げる。 虚空を掻くクラウドの片手を握り締めて、感じる箇所、先端でえぐるように何度も激しく突く。 生々しい水音が耳を犯す。それがなんの液体によるものなのか、検討もつかない。
「ああ、ああっ…!そこ、…い、い……すごい…ぁあ!…すご、い…ぃ」
もう片手だけでは自分の身体を支えきれなくなって、 クラウドは頭を地面に敷かれたコートの上に突っ伏して顔をこすりつけた。 それにかまわずセフィロスは突き上げるのをやめない。臓腑を掻き出すように深く激しく。
「やあ、あ、あ!…も、う……はぁん、こわれる……ぁ…こわれちゃう、よ…ぉ…」
時折痙攣を起こしながら、クラウドの身体が緊張と弛緩を繰り返し始める。 クラウドの手の握力がだんだん弱くなってきていることにセフィロスは気づいて、 はっとして動きを止めた。
「クラウド…………つらい、か?」
「セフィロ、ス……?」
急に腰の動きが止まったこと、セフィロスの声音で彼の心中を察したクラウドは、 絡ませた手をそっと握り締めた。
「おかしいね……止まらないって言ったのは、セフィロスの方なのにね……」
「……止めて欲しくないのか?」
クラウドは少しためらいがちに頷いた。
「ちょっと、つらい…けど、でも、ずっとずっと、気持ちいいし、それに……嬉しい」
「嬉しい?」
クラウドはまた頷く。セフィロスの方からではその表情はうかがえなかったけれど。
「うん……セフィに、されてるって思うだけで……どうしようもなくなっちゃう……」
突然セフィロスは、両手をクラウドの腰にかけてひっくり返そうとした。その意図を悟って、 繋がったまま、クラウドがぐるりと身体ごとねじる。
『ああ……っ』
たまらない疼痛にふたりで声をあげる。互いの声、それだけで、 身体がどうしようもなく火照るのを感じた。 向かい合って正常位になったふたりは熱い視線をまぐわせて、 まるで対極の磁石が引き合うように自然と顔を寄せて、とろけるようなキス。 舌の根がじんと熱くなるまで絡め合わせて、 唇が離れて舌が離れるとき名残のように銀糸をひいた。 深く息を吐いて、もう一度見つめあう。
「おまえの、顔が…見たくなったんだ」
クラウドは微笑んだ。セフィロスの顔を引き寄せてまたキスをねだった後、 濡れた声でささやいた。
「じゃあ、もう一度……壊して。そして、俺の壊れるさまを、ずっと、見ていて……」
クラウドが腰を動かし始めた。ままならない身体、最初はもどかしげに、 そして次第に大胆になっていく。
「ぅうん…ああ、……ぁん…っ……セフィ……」
セフィロスはしばらく動かずにクラウドを見ていた。否、見とれていた。 これほどまでに淫乱で貪婪な人間をセフィロスは初めて目にした。 何万本も抜いたベテランの娼婦でさえも及ばない痴態。 欲望という名をそのまま凝縮したようなダンス。セフィロスは目をそらさなかった。 まぶたを閉じていても感じる、セフィロスの熱い視線に照射されている感覚。 見られているという恥辱はいつしか欲情へ取って代わられる。 その激しい欲情に流されてクラウドはますます腰を弾ませる。
「セフィ……あぁ、っん…おねがぁい……動いて……」
誘われるままにセフィロスが腰を揺らし始める。計算されたような、 それでいてひどく感情的な腰の使い方。クラウドが最も感じる責め方。
「ぁあっ…ああ…あああ……あっ…あっ、ああっ」
クラウドの身体がのけぞる。収縮しようとする狭い門をこじ開けるように突き刺す。 強く締め付けられて、セフィロスは切ないような呻きを漏らした。 その声にクラウドがいっそう煽られる。そうして次々に情欲が積み重ねられていく。
「ああぁぁ、あぁん…あああっあんっ…ああぁ」
まるで歌うように喘ぎながら揺さぶられる。動くたびに喘ぎが漏れ、喘ぐリズムで腰が動く。 クラウドの双眸には涙が溜まり、その朦朧とした瞳からは次第に正気の色が失せて 欲望の色に染められていく。それは、際限なく相手を求める欲望。
「あ………あ、あぁ……も、っと…ぉ……」
「……クラウ、ド……」
身体中が快楽に打ち震えて正常な思考が奪われる。それでも欲しい気持ちだけは増すばかりで、 必死に互いを感じようと腰を揺らして四肢を絡める。
「……中に出して…いいか?」
大きくクラウドが首を振った。あまりの快感で、意識が薄れてきている。 口端から透明な液体がこぼれ喉をつたうのもかまわずにかたかたと痙攣を始める。
「あぁ……ァ…き、もち…いいよ…ぉ……」
全身が震えた。一度ではなく、何度も。絡め合わせた指に数瞬力がこもり、弛緩する。 ふたり同時に弾けた。そのすさまじい絶頂にセフィロスは一瞬激流に弾かれたように 意識が遠のくのを感じた。やがて、さざなみが返すように少しずつ意識がはっきりとしてくる。 結合を解いて、力なく横たわるクラウドの異変にセフィロスはすぐに気づいた。
「……クラウド?」
まだ少し呼吸が荒いものの、クラウドはいとも安らかに気を失っていた。 それを見てセフィロスはわずかに微笑み、手のひらで額の汗をぬぐってやり、 触れるだけのキスを落とした。
「……オレは」
クラウドを抱き寄せて、セフィロスは小声でつぶやいた。
「…愛してる……きっとおまえがオレを愛さなくなっても……オレはずっと……」
気を失っているクラウドには聞こえるはずもないひとこと。聞こえてはいけない、 聞かれてはきっと彼は「気づいて」しまうから。 だけど言わずにはいられなかったひとことを。
「ずっと……愛してる」
終わらせた方がいいのだろうか。今ここで。……終わらせた方がいいのだ。 セフィロスはゆっくりと右手をクラウドの首に滑らせた。 今夜クラウドと会う前に自分は覚悟をつけたはずだった。 なのに今更のように抵抗する自分がいる。そんな、弱弱しい自分が。 なぜなら、こんなにも自分はこの青年が、いとおしいのだから。 だから、失えないと叫ぶのだろう。いと惜しいと。
「セフィロス……?」
クラウドがうっすらと瞳を開けた。クラウドは少し不思議そうにセフィロスを見た。 まるで、どうしてここにセフィロスがいるのか分からない、というように。
「まだ……夢の中……?」
心持ち不安げに揺れるクラウドの瞳を見て、 セフィロスはクラウドの手を握って手指を絡ませた。 そして首にかけていた右手を頬に沿わせて。
「……ああ」
「よかった……ぁ」
少しこわばった身体から力が抜けて、ようやくクラウドは微笑んだ。 それが伝染したのか、セフィロスの頬もかすかに緩んだ。
「俺……変なのかなあ……どんなにセフィロスをもらっても、まだ足りなくて…… もっと欲しくて………こころも、からだも……もっともっと、セフィロスが欲しくて……」
それがないと不安で。そう言ったクラウドの唇は有無を言わさず奪われた。 クラウドは数瞬驚いたようだったが、すぐに思い出した。これは5年前、 ふたりがよくやったこと。思いを、言葉ではなく、口移しで伝える行為。 思いを言葉にするのを何よりも苦手とするふたりだから。
セフィロスの伝えたいことを感じ取ろうと、 クラウドはめいっぱいの感覚を使ってキスを受けた。セフィロスの口付けは、 とても温かくて優しくて、それはいやおうなしに5年前を思い出させるもので、 だけど5年前のままでもない。クラウドの舌が控えめに引くと、逃がさない、と追いかけて、 捕らえて離さなくて、それはひどく情熱的で、執拗でもあり、柔らかな唇と舌に酔いながら、 クラウドは自然と心に湧き上がってくる不思議な感覚に気づいた。
(なに?この、幸福感は……俺が、セフィロスを欲しがってるから?)
角度を変えるとき漏れる吐息が耳をくすぐり、うっすらと瞳を開けると目を閉じたセフィロスの 端整な顔が見えて、もう一度まぶたを閉じてクラウドはセフィロスの「伝えたいもの」を 受け取った。
(ちがう……セフィロスが、俺を求めているから……)
音を立てて唇が離れた。首筋をぺろりと舐められて「ああ」と声を上げた。 爪をたてて続きをせがんだ。セフィロスはクラウドの肢体をじっと見つめる。 上気した肌は薄いさくら色、所どころ鬱血したような花弁が散り、胸から下腹部、 後ろにかけてはふたりの出したもので真珠色に光る。 眺めているうちにそれがひどく蠢惑的な味をもたらすのではないかと思い、 セフィロスは胸や腹部に散った白濁を舐めとっていった。胸を這う舌は腹部へ移動し、 やがて下腹部へ。どこを目指しているのかはたやすく予想できた。 それは先の見えたカウントダウン。
「セ、フィ……苦いでしょう……?」
「おまえが出したものは、極上の糖蜜にも勝る甘美な味がする」
指でクラウドの精液をすくい、見せつけるように舐めとった。そして、 白い体液にまみれたクラウドの砲身の根元を手で支えて、先端を含もうと大きく口を開けた。 が、寸前で止まり、かわりに幹の方を舐め回して遠まわしの快感を与えた。 その焦らしがついにクラウドの堰を破壊した。
「セフィロス……ねえ……」
吐息混じりの震えた声でクラウドが訴えた。
「セフィの、飲みたい……舐めさせて……」
クラウドが有無を言わさずセフィロスを押し倒した。 その行動にセフィロスは少なからず驚いた。自分から動くとは思っていなかったから。 クラウドはセフィロスの顔を跨いで覆いかぶさると、ゆっくりと、 セフィロスのものを口いっぱいに飲み込んだ。そのさまは貪欲そのもの。 水を飲む小動物のように、なくてはならないものを取り込むように、唾液を絡ませて、 吸い上げて、舐め上げて。
「……気持ち、い?」
クラウドの問いかけに、つぼみの辺りを指でいじくりながら、セフィロスは答えた。
「ああ、温かいな、おまえの口の中は」
そう言って、セフィロスもクラウドの濡れた亀頭を唇で包み込んだ。紅 い舌の応酬。体液のはじける音、くぐもったうめき声、思わず漏れる熱く切ない吐息、 すべてがふたりを高ぶらせるのに役立っていた。愛撫をしながら愛撫される、 これは、愛し“合う”ことをそのまま体現できる体位なのだろうと。
やがてこらえきれずにクラウドが腰をゆらめかし始める。 上り詰めるほどに追い詰められるほどにクラウドの唇は舌は熱く絡みつき、 せりあがる快感に腰を揺らし、さきほどよりずっと大きくなったセフィロスを大切に含む。
クラウドに余裕が無くなってきていることを感じたセフィロスは、追い討ちのように指を2本、 つぼみに突き立てた。
「あ!…や、そんな、されたら……っ」
たまらずセフィロスのものから唇が離れた。セフィロスの愛撫は容赦がない。 2本の指を体内で動かして、感じるところにこすりつけるように押し広げ、 口は吸い上げる動きと鈴口に舌をひらめかせる動きを交互に繰り返す。
「やぁ…すご……きもちいいぃ……あぁっ」
もうクラウドには口淫を続ける余裕はなくて、それでも手にはセフィロスのものを握ったまま、 下半身を震わせて、指でこすられるテンポと喘ぎ呼吸するテンポがいつしか重なって、 そのまま急激にのぼりつめていく。
「ああ、ああっ、ああっ、ああっ…あああっ……!」
到達の瞬間、クラウドがペニスをきゅっと握り締めて、セフィロスはかすかに眉根を寄せたが、 吐き出されたものはすべて飲み干した。既に何度も果てた所為か、精液は少し薄かった。 それはこれまでの行為で相当の体力を使った証明でもあった。
「……大丈夫か?」
まだ呼吸は荒いものの、身体を起こしてセフィロスの顔を見たクラウドは微笑んで頷いた。
「気持ち、よかった……でもセフィは、まだ、でしょう?」
体勢を変え、セフィロスの膝のあたりに跨って、下半身に顔を近づける。 濡れた先端に指で触れて、そっと離すと愛液が糸を引いた。
「ほら、欲しがってる……こうすれば、俺がくわえてるとこ、見えるよね。 俺の口に、出して……」
亀頭に触れるぎりぎりまで唇を寄せて、吐息をかけるように切なげなため息を漏らした。
「セフィの…すごくおいしそう……」
ハーモニカを吹くように横に銜えて、丁寧に幹を舐めていく。 根元までたどり着くと袋の縫い目を尖らせた舌でそっとなぞり、 片方の袋を口の中で転がしもう片方は手のひらでそっと包む。 中身をくわえたまま袋を引っ張るとクラウドの頭にセフィロスの手が乗せられた。 髪を優しく梳かれるままに、幹をびしょびしょになるまで舐めまわす。
「クラウド……もう…」
「うん…欲しいよね。こんなに溢れてる……」
鈴口にキスをすると、溢れる先走りをすくうように舌でぺろりと舐める。 舐めても舐めても愛液はすぐ滲んでくる。それが愛しくてクラウドはもう一度 先端にキスを落とした。唾液と愛液で濡れた唇が鈴口に触れる。 その様がセフィロスを追いつめる。クラウドもまたひどく興奮して、 亀頭を一気に口に含んで舌を絡みつかせ、空いている手で幹をしごいた。
(セフィ、確か、こうやってた……すごく気持ちよかった…)
セフィロスの愛撫の仕方を思い出して真似てみる。口いっぱいにほおばって、 カリ首の部分が唇にひっかかるようにして、頭を動かす。舌も動かして裏筋をこするように。 セフィロスのものはとても大きくて、愛撫する動きはとてもぎこちないけれど、 激しく愛撫するうちに、セフィロスにそうされたときの感覚を思い出して、 無意識に腰が揺れた。セフィロスにされたように、頭を前後に動かしながら割れ目に沿って 舌を何度も往復させると、クラウドの髪を撫でていた手にわずかに力がこもった。
「クラウド……出す、ぞ」
ほどなく奔流は訪れた。口腔に受けて、こくんと飲み込んだ。ゆ…っくり唇を離して、 じわりと滲んでくる精液をぺろぺろ舐めとった。
「セフィの…どうしてこんなにおいしいの……」
ぴりぴりとした苦味。それがたまらない刺激となってクラウドを昂ぶらせる。 きっと他の誰のものでもこうはならない。唯一愛しい人が出してくれたものだから……それに気づいたとき、 妙な羞恥心に襲われてクラウドは頬を赤らめた。
「……セフィ、ごめん、ね……」
そしてそれとはまた別の羞恥心も同時に湧き上がってきた。 その理由は、すぐにわかったけれど。
「勃っちゃった……」
恥ずかしげにセフィロスの顔を見た。潤んだ瞳。その下半身のものは、 ゆるゆると立ち上がっていた。セフィロスは機嫌良さそうにくすりと笑う。
「謝ることじゃないだろう?」
「…でも……」
「クラウド、どうして勃起したんだ?」
「セフィの、フェラしたから」
「そう、それが……すごく嬉しい」
セフィロスの微笑に見とれながら、でも思った疑問を口にしてみる。
「でも、セフィ、つらくない?」
「クラウドはつらいのか?」
そう言われて、自分は答えを用意してなかったことに気づく。
「…え……?そう…かな、……疲れた、気もするけど……」
途切れ途切れ、言葉にしながら、クラウドは自らの衝動を知ることになった。
「………でも、…もう、どうでもいい……」
そう、どうでもいい。そんなことでこの衝動は抑えられない……
「おいで……クラウド」
セフィロスはクラウドを優しく受け止めて、ぎゅっと抱き合って口づけを交わして。
そして……

“イイ、か…?クラウド……”
“…うん……繋がってるとこ…熱くて……痛いくらいなのに……”
“感じるのか?”
“よくてたまらない……どうして……?”
“心の快楽、だろうな……”
“心……?心が気持ちいいから……?”
“そう、だから…オレもこんなに感じる……”
“きっと……幸福って、ことなんだね……”

“……ね、…セ、フィ……”
“………?”
“イって……いい……?”
“ああ……オレも、もうすぐ、イく…から……”

「ああ…ああぁっ」
かすかな痛みを含んだ甘い声をあげてクラウドが果てた。 そしてほどなくしてセフィロスもクラウドの中に吐き出した。 絶頂後のたまらない余韻に震えながら、呼吸を整えることもしないで、 クラウドはあふれ出そうな思いをどうにか伝えようと言葉を紡いだ。
「……愛し、てる……セフィ………」
どうしようもないほど溢れてくる、この思いに満たされる……
「愛してる……愛してる………」
「…………」
仮にセフィロスが、この思いに素直に答えられたら、幸せだったに違いない。 けれど彼は、これが先のない幸福だということを知っていた。だからこうして、 痛みを感じるのだろう。セフィロスは黙って、クラウドの中から自分のものを抜いた。
「あ、やだ……」
もっと欲しい、そう言いかけて、セフィロスが神妙な表情で黙っていることに気づき、 おそるおそるセフィロスの顔を覗き込んだ。
「セフィ……?」
「……夢の終わりが近い」
突如現実に戻されたかのようだった。
「………そ、っか…これは、夢なんだよね……」
「夢が終わる前に、ひとつ、確かめなければならない」
「……な、に?」
「おまえに現実のセフィロスが殺せるか?」
「………え…」
クラウドが、硬く硬く、硬直した。
「殺せるはずだ。いくらおまえが夢の中で“セフィ”を愛そうと、 夢の中のオレは所詮、過去の幻にすぎない。現実のセフィロスを、 おまえは憎んでいるはずだ。ならば、殺せるだろう。オレでなくなった私を」
「……憎い……?」
現実のセフィロスは、憎むべき相手だ。この夢のセフィロスが言うとおり、 現実のセフィロスが過去のセフィロスと別のものになってしまったのなら、 クラウドには現実のセフィロスを愛する理由はない。
「憎、い……?」
「そうだ、憎いだろう、私が」
ゆっくりと、言い聞かせて、セフィロスは誘導しようとする。ひとつの結論へと。
さあ、思い出せ。ニブルヘイムを焼いた炎の熱さを。思い出せ。
炭化した母親の腕を。
「俺は……セフィロスが……」
思い出せ。思い出せ。ティファの胸の傷。ザックスのうめき声。
エアリスの足元にできた血だまり。
「セフィロス、が……………………」
セフィロスの背後の空に迫り来るメテオを見た。鈍く光る隕石。
クラウドはかたかたと震え始めた。 血の気がひいて顔色が悪い。口の中がひどく乾いて唇を幾度も舐めた。
その先の言葉さえ告げることができたら、クラウドは現実のセフィロスを倒すことができる。 この一言さえ言うことができたら。現実に、立ち向かえる強さを。この一言、さえ。








「………………だ、って……セフィ、ロス…だよ……」
どれくらい経っただろう。クラウドの瞳が揺れた。
「…………だめ……憎みきれ、ない………」
クラウドにはどうしても割り切れない。クラウドにとってセフィロスは、 やはりセフィロスなのだ。たとえ昔の優しかったセフィロスから変わってしまったのだとしても 、クラウドを包み込んで愛してくれたセフィロスに違いないのだから。
「クラウド…………」
「殺せない………殺したく…なんて…………」
大きく見開いた双眸から涙が零れた。
「俺、は……セフィロスを…………」
こぼれてしまう、と思った。……いけない、このままだと、あふれてしまう。
「セフィロスを……うう、うあああ」
止め方がわからない。もう、止まらない。
「俺は、ああ、セフィロスを…あああ……セフィロス…あああああ」
「……クラウド……もう、いい」
心臓が握りつぶされるかと思った。 錯乱を始めたクラウドを、苦痛とともに見てセフィロスはきつく抱きしめた。 背がしなるほど抱きしめられながら、クラウドは涙をこぼし続けた。
「セフィロス……ああ…俺、セフィロス、ああああ」
「もういい。もう何も言わなくていい。オレが言うから。おまえの分も、オレが言うから」
「あああああ、あああああああ……」
クラウドの出した答えは、予測はできたものだった。 それをひどく複雑な思いとともに受け止めながら、 セフィロスは自分がある覚悟をしなければならないことを悟る。 だけど今は、…せめて、今は、ただ時間の許す限り、あふれるほどのこの気持ちのおもむくままに、 ひたすらに互いの存在を感じていたかった。この言葉だけが、どうか真実を示すように。
「愛してる」
幾度となく口づけながら、漏れる吐息の合間にささやいた。クラウドの分まで思いをこめて、 幾度となく。クラウドの腕が背を抱きしめ返し、手指に力がこもり、 やがて安堵の微笑を浮かべるまで、幾度となく。
「愛してる」

どちらともなく押し倒して押し倒されて、まるですべてを貪り尽くすかのようだった。 ありとあらゆる感情を食らい合った。
深く絡めた腕も足も一向にほぐれないまま、抜かずに3回、4回交わるうちに いつしか精液も出なくなって、絶頂は苦しいばかり、 それでもふたりは行為をやめることはしなかった。
痛くてたまらなくなると回復魔法をかけてまた抱き合った。何度も失神して、 蘇生魔法で目が覚めるたび、セフィロスがそばにいることを確認して安堵の涙を流した。
気がおかしくなるほどキスを繰り返した。 とうにふたりともおかしくなっていたのかもしれない。
回数を重ねるごとに、心の表面を覆っていた、建前とか体裁とか、すべて剥がれていって、 まるで赤剥けの真皮を擦り合わせているようだった。 そうすれば、いずれ溶け合える気がして。本当にひとつになれる気がして。

「セフィ…セフィ……もっとそばに来て……もっと、…奥まで
来て………」

ねえ、俺たちはどうして、こんな痛い思いまでして、セックスをするんだと思う? それはきっと、それが互いを感じる一番手っ取り早い手段だからじゃないのかな? このどうしようもない思いを感じあう一番わかりやすい手段だからじゃないのかな? だからこの、繋がってるこことここは、きっと、 それを感じるための一番敏感な器官なんだろうって……

「も……だ、め……」
疲れ果ててふたりは倒れ込んだ。交わっているときは気分を高めあう要因ともなっていたふたりの荒い 呼吸音が変に大きく聞こえて、それがおかしくてクラウドはくすくすと笑った。
「何回…イったのかな……」
「5回目くらいから数えるのが馬鹿馬鹿しくなったな。……10回は軽いか」
「あはは……すごいね、…新記録」
(………よかった……)
「さすがにもう限界だな……オレは」
「嬉しい…セフィロスが限界なんて、俺、体力ついたのかな」
「昔のように、どんなに気持ちよくてもおもらししなくなったしな」
「………!そ、そんな…昔のこと……」
「怒るな。……嬉しいんだ。おまえが成長していて」
(逢えて、よかった……)
セフィロスは上体を起こすと、「おいで」とクラウドに合図をした。
すると寄り添うようにクラウドが身体を預けてきた。
「ね、…もう、セックスは、無理だけど……」
セフィロスの胸の中に入るような体勢になると、少し安心したようにクラウドは息を吐いた。
「もう少しだけ、このままでいさせて………」




さっきから、セフィロスがちいさな声で歌を口ずさんでいる。 鼓動が感じられるほど近くにいるおかげでやっとクラウドにわかるくらいの、 ほんのちいさな声で。どこの言葉かわからないから、 クラウドにはその歌詞の意味を知ることができないけれど、 どこか悲しくて、だけど強い、何か、強い力がある曲だな、とクラウドは思った。
(そう、悲愴……っていうんだろうな……)
セフィロスはまるで、己自身に言い聞かせるかのように、歌の一節を口ずさみ続けている。




「……セフィロスがここに来た目的って、俺に夢を見せること?」
セフィロスの胸の中でクラウドがぽつりと問いかけると、セフィロスは歌をはたと止めた。 目をわずかに見開いている。
「おまえ……」
「セフィロス、嘘が下手になったね」
クラウドが、ふ、とかすかに微笑む。
「でも、嬉しかった……抱いてくれて」
クラウドがセフィロスの胸に頬をすりよせる、鼓動をもっと近くで感じようとするように。 それを受けて、セフィロスはクラウドをぴったりと抱き寄せた。
「嬉しかった……セフィロスがまだ、俺を愛してくれていて」
「…………そうか」
それきりふたりは言葉をなくして、そのまま、静かな時が流れた。 時折思い出したように、じゃれるようにふれ合う。 いつまでもこうしていたいと思うけれど、確実に時間は経過していて。 遠くの空を眺めると、山際のあたりの空が微かに紫がかっているのが見えた。 あと一刻もすれば、夜明けが来るだろう。 クラウドはセフィロスの腕の中で少しうとうとし始めている。 それを「する」のなら、クラウドの意識が朦朧としている、今が好都合ではあるのだ。 セフィロスはある迷いと決意を胸に秘めて、やがて覚悟を決めたように口を開いた。
「オレがここに来たのは……ひとつは、最後におまえに逢いたかったから…… そして……もうひとつは…………」
「え……?」
    動く な
突然、さきほどまで穏やかな空気に包まれていたクラウドの身体が硬直した。 意図的にではない。脳の指令が、運動神経を通らない。金縛りを受けたように、 クラウドの四肢はまったく動かなくなっていた。
クラウドはまだよくわからないという表情で、セフィロスを見た。
「……俺を、殺すの?」
「いや」
セフィロスは首を横に振った。クラウドを縛り付けたまま。 だけどその目はクラウドを決してまっすぐ見ようとしない。 直視したら、きっと負けてしまうだろうから。
「そう、もうひとつは……おまえの中の、オレへの愛情……一切の思慕を、消去するために」
その言葉の意味をクラウドが理解するのにしばし時間を要した。 不安げなクラウドの瞳が少しずつ驚愕に見開かれて、無意識に開いた口は空気を通すばかり、 ようやく振動を発することが叶っても蚊の鳴くような一言しか口にすることができなくて。
「どう…し、て……?」
そんなことができるのか。何のために?クラウドはにわかには信じられずにいたが、 セフィロスの、努めて感情を押し殺した表情を見て、セフィロスが本気であることを悟ると、 全身から血の気がひくのを感じた。
「い、や……そんなの、嫌だ……」
愛情を消す?この感情が消えてしまう?この温かくて切ない思いが消えてしまう? どうして?どうして!クラウドは必死に抵抗しようとする。懸命に身体を動かそうとするが、 それを嘲笑するかのようにクラウドの身体は、ぎぎ、ときしむだけ、わずかにも反応をしない。
「おまえはもうこれ以上、苦しまなくていいから。ただオレを、憎めるようになるから」
その言葉で、クラウドはセフィロスの本意を理解した。 クラウドがセフィロスを憎みきれないと知った時点で、セフィロスは決意していたのだ。 セフィロスは、クラウドの苦しみそのものを取り除こうとしている。 クラウド自身を殺すことよりも、残酷な方法で。
「だって、なにも……のこらないよ……」
「……クラウド」
「俺のなかから……この思いが消えたら…もう、なにも……」
セフィロスは意識的な無表情を崩さない。クラウドの頬を慰めるように両手で そっと包み込んでから、クラウドの頭に手を添えて、セフィロスは記憶を突き崩しにかかった。 ガラス細工を破壊するように、ぱりんぱりんと、記憶とはこんなに脆いものなのだろうかと、 クラウドの中で、優しかったセフィロスに対する記憶がこわれていく。 彼が一番つらくて、幸せだった頃の記憶が。




クラウドはどうにかして壊れた記憶をかき集めようとするけれど、 壊れていくスピードの方が、はるかに速い。次第に強くなっていく喪失感のなかで混乱する。 飲み込まれる。意識が遠のいていく。だけど、ほんのわずか、わずかに残った力で、 クラウドは最後の抗議を零した。最後の言葉を。
「…………ずるい、よ……」
クラウドの双眸から、雫が滴り落ちた。
「セフィロスは……ずるい……」
ついにセフィロスの無表情が崩れた。端正な相貌が苦痛に歪んだ。 溢れ出る愛惜で思わず気が緩みそうになる。けれどセフィロスは必死に堪えた。 噛み締めた唇が切れて血を流した。「これはエゴだ」とかすかな声でつぶやいて、 クラウドの唇に、最後のキスを落とす。名残惜しげにふたりの唇が離れたとき、 セフィロスの瞳も涙で濡れていた。
「……エゴでもいい、オレの望みは、ただひとつ。オレを殺して、
どうかおまえが泣かなくていいように。たとえおまえがオレを忘れてしまっても」
そのとき、……確かにセフィロスは微笑んだ。すべての思いを、
その微笑に溶かしこんで。
「オレはおまえを、ずっと、忘れないから……」
クラウドは叫んだ。渾身の力で叫んだ。何を叫んだのかは、クラウドにもわからない。 ただわかるのは、セフィロスの微笑が滲んでいくこと。愛しい微笑が消えていくこと。 同時に意識が深く落ちていくのを感じた。クラウドの視界は白く染まり、 やがて何もわからなくなっていった。


“おかしいな……クラウド。
  オレはずっと、おまえの泣き顔を見たくないと思っていたのに、
     気づいたらいつも、おまえを泣かせてばかりいる…………”



空が明るく白む頃、ティファは目を覚ました。隣を見ると、クラウドはまだ眠っている。 ティファは自分にだけ毛布がかかっているのを認めてかすかに苦笑した。 クラウドの顔を覗き込んで、頬をぺしぺしとたたく。
「クラウド、朝よ」
幾度かたたくと、眉がひそめられて、クラウドはかすかに目を開けた。
「……あれ、もう……朝?」
クラウドはゆっくりと上体を起こした。その目はまだ完全には覚醒していない。
「なんか……あんまり、寝た気がしない……」
ティファは少し呆れながら、ふふっと笑った。
「遅くまで起きてたんでしょ?考え事でもしてたの?起こしてくれれば、つきあったのに。 それにね、毛布もかぶらないで寝るのはどうかと思うわよ……クラウド?」
ふと、ティファが怪訝そうにクラウドを見つめる。 その視線を感じたクラウドが首をかしげた。
「どうかしたのか?ティファ」
ティファに自分の顔を指差されて、クラウドは頬に触れてみた。すると、指先が濡れた。
「あれ……?」
「クラウド……どうしちゃったの?」
クラウドはわけがわからずに目を拭った。眠気で生理的な涙が出たのかと思ったけれど、 涙は次から次へとあふれ出て止まりそうにない。
「怖い夢、見たの……?」
「ゆ、め……?」
「どんな、夢?怖い夢って、話すと楽になるって、言うじゃない?」
「……わからない……」
クラウドは首を横に振って思わず、身体を抱いた。 胸に正体不明の痛みがあるのを知覚して。そしてふと気づく。 毛布をかぶらずに眠っていたのに、どうして自分の身体はこんなに温かいんだろう。 まるでほんの先ほどまで何かに包まれていたような。どうして。
思い出そうとするけれど、そこにはもう、何も残ってなくて。
「とても、とても、………大切なことだったのに……………みんな、忘れてしまった」
クラウドは宝物をなくしてしまった子供のように、はらはらと、静かに涙を流し続けている。
そんなクラウドを、ティファは悲しげに見て、そっと抱きしめた。
そのときふたりを、山の端から顔を出した太陽が僅かに照らす。
それは決戦当日の、合図。









挿入音楽・挿入詩:『Letztes Glück』
Johannes Brahms/曲 Max Kalbeck/詩 杉山 好/訳

こうも不親切に長いお話を、最後まで読んでくれる方は
そういないと思いますが、もしいらしたら、本当にありがとうございます。
セフィロスのとても不器用な愛情表現、が書きたかったのです。
記憶を消すこともそうですが、長いセックスもそう。
セックスってね、かなり不器用な行為だと思うんですね、
身体でぶつかるしかない、一種の取っ組み合いですからね。
タイトルの「先のない幸福」、これはLetztes Glückの、
ワンクッション置いた訳。もうひとつ、ストレートな訳し方があって、
どっちをタイトルにするか最後まで迷ったのです。
どちらにせよ安直なタイトルには違いないのだけど、
その迷いっぷりは、ウィンドウの左上に見ることができます(笑)

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